特集 公衆衛生と危機管理
エイズパニックとその対策
井上 明
1
Akira INOUE
1
1神戸市衛生局保健課
pp.96-101
発行日 1988年2月15日
Published Date 1988/2/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1401207617
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■はじめに
情報の不明確な遠いアフリカでのエイズはともかく,とりわけわが国と交流の多いアメリカからのエイズ情報は,その主要感染者がゲイや薬物静注者であるとはいえ,対応の難しい性行為感染症というわが国の公衆衛生上の難問題として,俎上に乗せられるであろうと予測された.具体的には長野から「ジャパ行きさん」として予告がなされ,ポスト・ジャパ行きさんは風俗営業関係女性と目されていたものの,いまだ市民生活とは無縁の,のぞき見る興味の対象程度の認識が支配的であった.そして,まず発生するとすれば首都圏から,との大方の予想を裏切って,不特定男性との性的接触?を行った女性エイズ患者は,神戸から報告された.唯一人の女性患者によって,単なる医学や公衆衛生上の問題としてではなく,学校教育あるいは人権と,たちまちにして国民的課題と化し,さらには貿易摩擦や売上税法案を押しのけて,緊急かつ最高度の政治課題にまで上った.
性行為感染というエロチシズムと,先端医療もお手上げという恐怖の新型感染症の対比は,国民的のぞき趣味の興をそそるに十分であった.一部とはいえ,たちまちこれと迎合したすさまじいマスコミ報道は,患者や関係者のプライバシーを暴き,エイズをさらに恐ろしい疾病にしていった.
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