特集 水と空気
森林と水と空気
宮脇 昭
1,2
Akira MIYAWAKI
1,2
1横浜国立大学環境科学研究センター
2横浜国立大学環境科学研究センター植生学研究室
pp.402-408
発行日 1987年6月15日
Published Date 1987/6/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1401207487
- 有料閲覧
- 文献概要
- 1ページ目
■はじめに
「都市の前に森があった,都市のあとに砂漠が広がっている」とは,最近よく人間と自然との関わりについていわれる言葉である.かつて,日本列島の99%は多層群落の森林でおおわれていた.森林は大気を浄化し,尽きない水の生きた貯水庫であり,濾過装置でもある.日本の国土に人が定住し,長い時間をかけて次第に文明を築いてきた.縄文時代の狩猟採取時代はもとより,2,000年以上も前に中国経由で渡来してきた米のなる草,イネの栽培が始まってから,さらに日本人と水との関わり合いは日々の生活にかけがえのない存在となってきた.
当時,自然を開発し,厳しい条件の中で食糧資源を得,生活の場を作るためには,しばしば空をおおうような多層群落の森林は,むしろ人間生活にとっては邪魔物であったかも知れない.しかし,次第に利用する器具,機械が発達し,人間の活動力が自然の森を圧倒するようになってきた.今日では,逆に森林国であるわが国においても,すでに都市や産業立地,その近郊では,その土地本来の自然林は,まったく消滅を余儀なくされている.たしかに国土統計を見ると現在なお,国土の67%は林野と出ている.しかし,その森林の大部分はスギ,ヒノキ,カラマツ,マツ類などの人工林である.日本列島の自然林は,東北・北海道では冬が低温で落葉する夏緑広葉樹で占められていた.
Copyright © 1987, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.