衛生公衆衛生学史こぼれ話
18.別天さまのお祭り
北 博正
1,2
1東京都環境科学研究所
2東京医科歯科大学
pp.17
発行日 1986年1月15日
Published Date 1986/1/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1401207176
- 有料閲覧
- 文献概要
戦前のことであるが,毎年2月10日になると東大衛生学教室は,朝から何かと慌ただしい.これは教室の開祖,緒方正規先生が,恩師の別天師の命日に"ペッテンコーフェル先生記念会"を催し,教室の先輩,現役,その他の関係者が集まって,追悼談などをしていたものが,緒方先生が亡くなられてから,2代目教授,横手千代之助先生が"ペッテンコーフェル・緒方先生記念会"として続けられたもので,横手先生定年退官後は黴菌学初代教授の竹内松次郎先生が主宰されたが,私はこの時代にこの記念会の末席をけがすことになった.
衛生学教授室に掲げられた別天,緒方両先生の油彩の肖像画を降ろしてハタキをかけたり,大きな花瓶を取り出したり,花を買って来たりで,男女の小使さんたちは何かと忙しい.彼らはこの行事のことを"別天さまのお祭り"と称していた.われわれ若手は定刻前に会場(当時は赤門前の燕楽軒という古風な洋食屋のことが多かった)に受付役をつとめ,大先輩たちの御高話を拝聴したわけであるが,私にとっては大変おもしろいものであった.しかし私は落ちつかず時計ばかり見てソワソワしている.というのは翌日の2月11日は紀元節(現在の建国記念日)でお休みで,前からスキーに行く予定がある.10日の夜汽車に乗らなければならないからである.こんなわけで,別天師の命日が紀元節の前日ということはよく知っていた.
Copyright © 1986, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.