特集 死と公衆衛生
死亡診断基準をめぐって
曲直部 壽夫
1
Hisao MANABE
1
1国立循環器病センター
pp.505-512
発行日 1985年8月15日
Published Date 1985/8/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1401207088
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生命あるものは必ずその終焉,即ち死を迎えねばならない.これは生物における自然界の法則である.万物の霊長を自負する人類においては,古代よりその死の到来を可能な限り遠ざけるべく,その時代,時代の科学の進歩に応じて,いろんな手段が探求されて来たのである.しかしながら,あらゆる手段を尽くしても死の到来を回避できないという時には,従来は比較的容易にまた円滑に死の確認がなされて来たのである.
これは生物学上生体の機能の停止の確認を,医師たる者の裁量に委ねることが一般の社会通念となっていたからである.ところが最近,医学の進歩と医療技術の発展によって,従来の死亡確認に至るまでの段階における,ある特異的な状態が人為的にもたらされるようになった,即ちこれが脳死というべき状態である.生物学的見地からすれば明確にその状態の客観的表現と把握は可能であるわけであるが,複雑多様化せる昨今の世相と価値観の下,また最近の生と死に対する哲学,倫理,宗教,法律,社会など各方面の考え方が錯綜し,絡み合って脳死の問題が昨今非常に論議されている現状である.本稿においては医学の立場から,これらを整理して読者の参考に資したい.
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