特集 小児の育成
母子相互作用について
澤田 啓司
1
Keiji SAWADA
1
1沢田小児科医院
pp.334-338
発行日 1984年5月15日
Published Date 1984/5/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1401206862
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■母子相互作用論の背景
ヒトを始め,哺乳動物の子は,親かそれにかわる養育者(care-giver)に保護され,養育されて育つ.その際,子は親に対して目であとを追う,手をのばす,微笑,啼泣発声などさまざまなシグナルを送って親の注意をひく.これをBowlby.Jは愛着行動(attachment behavior)とよんでいる.親は子のシグナルに応えて愛情を示し,養育をおこなう.そのことで子は更に親への愛着を深め,親は子に対する愛情をたかめてゆく.このように子から親へ、親から子へ往復するシグナルと応答,愛着と愛情が育児には不可欠であって,この母子間の交流を母子相互作用(mother-infant interaction)という.
ヒト以外の哺乳動物の育仔は,比較行動学(ethology)の分野でさまざまな情報が集められている.すべての哺乳動物は,自然な母子相互作用のシステムをもっている.動物の育仔の特徴の一つは,刷りこみ(inprinting)とよばれる現象である.ある種の鳥類は,孵化したとき最初に目にしたものをcare-giverとして認識する,この仕組みは,生得的なもので,出生直後の短期間に成立し,ある感受性期(sensitive period)を超えると成立しなくなり,また一旦成立すると生涯失われない不可逆的なものであるとされている1).
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