今月の本
中野 進 著『医師の世界—その社会学的分析』—医師自身による医師像の実証的解明の貴重な労作
橋本 正己
1
1国立公衆衛生院
pp.665
発行日 1977年9月15日
Published Date 1977/9/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1401205471
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医療の危機が叫ばれるようになって,すでに久しい.これは1960年代以降,欧米諸国にも共通するものであるが,この間の社会経済の変化が他に類のない激しいものであったため,日本の場合には,その様相はとりわけ深刻であり,かつその要因は複雑で根が深い.だが,医療については医師をめぐる問題が,その基軸のひとつであることは明らかであろう.ところが,この主題については,医師の社会がその長年の伝統と日進月歩の専門技術的内容などからきわめて特殊な条件をもつため,最近は特に,医療告発の対象としてマスコミで盛んにとりあげられてはいるが,その実像を実証的に解明する労作はほとんどなかった,といっても過言ではあるまい.
本書の著者は,京部大学卒業後30年,病院開業歴20年を有する第一線の外科医であり,しかも府の医師会,病院協会など医師としての社会的活動に長年積極的にとりくんでこられた方である.本来,この主題の解明は,その特殊性からみて,医師自身により,しかも社会医学などの立場からの理論的な論述や評論的提言のみでなく,実践的な立場からなされることが最も望ましいと考えられるのであるが,本書はこの意味でまさに得難い著者に恵まれたものといえる.つぎに本書の大きな特色は,著者が「資料なくして発言なし」,「調査なくして発言なし」と強調されているとおり,調査による実証的なとりくみに徹していることである.
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