特集 保健と福祉におけるニードとデマンド
ヘルス・ニード測定方法の検討
田中 恒男
1
1東京大学医学部保健管理学教室
pp.332-336
発行日 1976年5月15日
Published Date 1976/5/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1401205187
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はじめに
第二次大戦後,米占領軍の指導下に急速な勢いで流れこんで来た米国公衆衛生理論は,その地域における展開の仕組みの中で,ヘルス・ニードへの対応の必要を強調した.それから30年を経た今日,再びニード論が復活して来たことは多くの意味をもつであろうが,その直接のきっかけが,公害,薬害等によって触発された,住民要求をどう位置づけるかに端を発していると考えて,おそらく大きな誤りはないであろう.すなわち,住民の要求——デマンドもしくはウォントと住民の健康養護のための必要性——ニードとの区別から始まり,ニードを把握する責任の体制,その把握法など,きわめて多くの問題が今日再び論じられようとしている.
考えてみれば,この種の論争は,いわゆる地区診断をめぐる論争として,昭和30年代に,いろいろな角度からとりあげられている,たとえば,宮坂らによる地区診断の理論の紹介,筆者による公衆衛生調査法の提唱,山本・岡田らの地区診断論など,学術的水準から実際の現地活動での具体的検討の水準まで,多くの論争がなされている.しかし,当時の論争において欠けていたと思われる点は,ヘルス・ニードを既定のものとして受けとめ,筆者の検討以外にはあまり論理的な分析を加えた例が少なかったことである.そして,そのまま測定技法のレベルでの検討にとどまってしまったがゆえに,昭和45年以降の新しい情勢に対して対応し得ない部分が生まれたのだ,と考えられる.
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