特集 市町村の保健行政を分析する
談話室
市町村と保健衛生
橋本 正己
1
1国立公衆衛生院衛生行政学部
pp.534-535
発行日 1966年10月15日
Published Date 1966/10/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1401203349
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〔I〕
近代公衆衛生活動が,すぐれて地方自治的な性格のものであることは,欧米諸国の過去1世紀余の歴史が如実にこれを物語っている。すなわち,イギリスは世界的にみて公衆衛生活動の先駆をなした国であるとともに,地方自治の故郷として評価されているが,「その地方自治の発展は保健衛生問題に負うところが少なくない」という地方制度の専門家の評価は,まことに味わうべきものがある。健康は日常生活の諸要因の集約的な反映と考えられ,生活はまず第一次的生活圏である地域社会に深く結びついたものであることを考えるとこれは当然の姿である。このような事情は,欧米諸国を通じて大同小異であるが,イギリスの場合などでは,自治体は住民の保健と福祉のために存在したといっても決して過言ではないほどである。この点日本の近代化の過程においては事情がはなはだしく異なっていた。はじめて市町村制および府県制郡制がつくられたのは,明治維新から20余年を経た時期であった。明治というきわめて特異な時代に形成された日本の地方制度が,種種の経緯があったとはいえ,高度の中央集権的な形態となったことは自然の成りゆきであり,またこのような統治の構造が,衛生行政をも含めてその後の日本の西欧諸国への急速な追いつきにあたって力があったことも否定するわけにはいかない。
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