随想 明日を担う公衆衛生
バンカ島の思い出
長谷川 恒夫
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1三菱金属鉱業人事第1部
pp.431-432
発行日 1966年8月15日
Published Date 1966/8/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1401203306
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毎年夏になると,戦争中の昭和17年から21年まで住んでいたバンカ島の生活を思い出す。バンカ島は赤道直下に在り,オランダ国営の錫会社のあったところで,バンカおよびビリトンという2つの島から成っている。その大きさは,2つの島を合わせて四国ぐらいもあろうか。スマトラ,ジャワ,ボルネオ,マレーにはさまれた海上交通の要衝であり,その頃は,海上密輸の中継地でもあって,華僑が多く,有名なバンカ美人の産地でもあった。島のいたるところに砂錫が埋蔵され,オランダにとって宝庫でもあった。オランダ人住宅の美しさは,今の東京の有名なホテルのロビーを想像してもらえばよい。この島は,錫ばかりでなく,ゴム林も多く,果物や海産物にも恵まれ,そのうえ,世界第一の品質を誇るバンカ胡淑の産地でもあった。従って,今でいえば,億万長者が大理石造りの華麗な住宅を片田舎に建てて住み,訪れるわれわれを驚かせたものであった。
島には,世界中の一流商品が安くて豊富にある。物資不足の日本から渡来したわれわれには全く夢の島かと思われた。
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