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DESK・メモ—丹波の徳利
遠
pp.561
発行日 1964年10月15日
Published Date 1964/10/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1401202907
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清水坂を下るうちに夕かげは濃くなってきた。清閑寺から辿って来た脚が心もち重い。古い雑器を売る店なども奥の方はくらくなって,わずかに道へせり出した板土間などにはさすがに残る夕日が微妙な縞目をうつしていた。丹波の徳利を寂びしい夕ぐれの店の隅にみつけたのは,草臥れた脚をほっと休めるしおでもあった。ステテコ姿の取的みたいな主人がくらい中から白い大きな顔をみせて,「へ,ゆっくり見ていとおくれやす」と灯をつけた。切って落したように外がくらくなった。
「名ばかり丹波」で仕様もない代物だが窯はぜが美しい景色をつくり,肩から口への立ちあがりがむしろ京焼あたりの優しみをただよわせている。一升ばかりのものか,水でも入れて重みをつけたいお手軽な徳利を,いくらか値切って買うことにきめた。
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