特集 健康教育と公衆衞生教育
総説
統計の誤用
立川 清
1
1国立公衆衛生院
pp.51-56
発行日 1956年11月15日
Published Date 1956/11/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1401201754
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1.比較は似たもの同志で
(第1例)
まず極端な例を挙げよう。いま男の致命率20%女の致命率40%という,女の致命率が高い疾病があるとする。この疾病の新治療法が有効かどうかを見るために,男80人,女40人,計120人の群について実験した。対照として男30人,女60人,計90人の群を使い,実験群の死亡者は32人,対照群の死亡者は30人だったとする。実験群の致命率は26.7%(【32/120】×100),対照群の致命率は33.3%(【30/90】×100)で,実験群の致命率の方が低いように見える(第1表)。すなわち新治療法は有効のように見える。果してこの判断は正しいだろうか。
男女を別々にして比較すると,第1表のように,実験群も対照群も男の致命率は共に20%,女の致命率は共に40%であって,実験群と対照群との間には差はない。ただ実験群には致命率の低い男が多く含まれ,対照群には致命率の高い女が多く含まれていたために,男女を合計すると実験群の致命率が対照群よりも低いように見えるに過ぎない。男女によって致命率に大差があるというときは,男は男同志,女は女同志で比較をすればよい。または実験群と対照群の男女の割合を一定にしておけばよい。比較はいつも似たもの同志でしなければならない。こんなバカげた誤ちをする人はいるはずがないと思うかも知れないが,必ずしもそうではない。
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