綜説
医療保障の問題点—いかにして医療保障制度を確立せしむべきか
近藤 文二
1,2
1大阪市立大学
2社会保障制度審議会
pp.44-47
発行日 1956年7月15日
Published Date 1956/7/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1401201700
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1.医療保障と国庫負担
「社会保障」という言葉ほど世間でよくつかわれながら,しかも,その内容がはつきりとつかまれていない言葉はほかには余りないであろう。
健康保険が赤字になつたというので保険料を引上げようとすると,それは余りにも「保険」に囚れすぎている。健康保険はすでに「社会保障」の一環となつているのだから,金が足りなければ国庫で負担すればよい.こうした考え方で応々にして「社会保障」という言葉が使れているようである。つまり,何でも国が費用を負担して無償で生活が保障されるのが「社会保障」だというわけである。いかにも「社会保障」という言葉はイギリス人の好んでつかう「ゆりかごから墓場までの最低生活の保障」という意味をもつている。またわが国の憲法第25条が「すべて国民は健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する」と定め,かかる権利を守るための手段として社会保障の向上と増進をうたつている場合も,およそこれと同じ考え方からきているといつてよい。しかし,そうだからといつて,「社会保障」とは国がすべての費用を負担するという意味の制度であると簡単に理解してよいであらうが。イギリスのように,社会保障制度が完備している国でも,社会保障の費用の約半分は国民が払こむ保険料で賄れているのであつて,残りの半分でけを国が負担しているに止つている。ただし,医療に関するものだけをぬき出すと,その費用の90%までは国が負担している。
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