特集 結核問題の焦点
論説
結核病学者に望む
豊川 行平
pp.2
発行日 1953年12月15日
Published Date 1953/12/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1401201289
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(1)結核治療体系の確立
結核,殊に診断治療に関する研究は最近急速の進歩をとげた。特に治療面においては昔日の俤を留めない程度の変化を受けている。曾つては結核の治療といえば専ら大気,安静,栄養療法に依存するのみで,療養所の医師となつたが最後全くなすべき術もなく,ただいたずらに自らの腑甲斐なさを嘆くのみであつたわけであるから,そういう時代からすると夢のような状態である。最近数年の間にストレプトマイシン,パス,ヒドラジツト等の化学療法剤が相次いで発見されたし,又外科的療法では気胸,成形より最近では区域切除さえ実用化され,この方面の成果は最近の結核死亡率の激減となつて現われてきていることは周知のとおりである。
しかし,このような各種治療法の相次ぐ出現は大気,安静,栄養療法を軽視させる結果を招いたのみならず,更に結核治療界の混乱をも惹起したことは争えない事実である。例えば,ある学者は初期より区域切除を行うべきとしているし,ある学者は化学療法剤を主張するといつた具合で,そこには頼るべき治療体系といつたものがなく,医師はそれぞれ自己流にてんでんばらばらなやり方で治療を行つているというのが現状である。かかる現象は少くとも他の疾病には見られないことで結核死亡者は減つたが患者は増えたといつたことが起るのも当然といえよう。
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