論述
引揚檢疫の概況に就て
山田 正次
1
,
吉田 壽三郞
1
1厚生省引揚援護院檢疫課
pp.292-296
発行日 1947年1月25日
Published Date 1947/1/25
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1401200094
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敗戰の結果,海外に在る軍隊と在留邦人は引揚を餘儀なくされた爲め,650萬人と云ふ史上に嘗て見ざる民族大移動に伴つて,國内に侵入を豫期される各種の傅染病の防遏と云ふ問題が,引揚に當つて先づ第一に取り上げられた。當初は引揚完了には4,5年を要する見透しであつたが,米軍の絶大な援助に依つて豫想外に進捗して既に2/3を終りソ連統治下に在る者も少數宛ながら近く歸還を見んとしつゝあつて,引揚の前途も豫測し得るに至つたので昨年10月引揚開始以來約1年後の今日に至る迄の檢疫實施の概況を檢疫所の人々に代つて世に紹介すると共に,敗戰の裏面に縁の下の力持ち的存在に甘んじて引揚檢疫に挺身してゐる人々の苦勞を知つていたゞく爲に敢て拙文を草した次第である。
連合軍の占領下にあることゝて,檢疫各般に亙つて最高司令部の指示を受けてゐる5種傳染病(コレラ,ペスト,痘瘡,發疹チフス,及黄熱)は素とより,監視乃至停留こそしないが其の他の法定傳染病全部及び癩等も檢疫の對象とされてゐる。のみならず引揚と云ふ特殊事情に依つて,傳染病以外の一般患者の處理も檢疫所の大きな仕事になつてゐる。從つて從來の檢疫と云ふ観念を離れて,一般衞生處理に當つてゐるのが今次引揚檢疫の特長たと云へる。
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