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結核対策手段としての潜在性結核感染症治療
1.低まん延状態下
1) 歴史的経緯
個々の患者や接触者等への臨床医学的個別対応としての予防内服ないしは潜在性結核感染症(LTBI:latent tuberculosis intection)治療(以下,「潜在性結核感染症治療」の表記で統一する)の試みは,米国の小児科医Edith M. Lincolnに始まるものと思われる.個別対応としての潜在性結核感染症治療は,感染結核を治癒せしめることに比べれば効率は低いとはいえ,感染性結核の発生防止に寄与し,感染サイクルを断ち切る効果も期待できないわけではない.しかし,最初から潜在性結核感染症治療を公衆衛生的な結核対策手段の一つとして見ていたわけではないだろう.1960年当時「もっとも有効な公衆衛生的手段としての化学療法1)」という概念すらあまりにも革新的で,容易には受け入れられなかった過去の経緯を考えれば当然であろう.
潜在性結核感染症治療を結核対策手段とする明示的な考えを案出したのも,やはり米国を嚆(こう)矢(し)とする.結核の発生そのものを防止する手段としては,以前も今もBCG(結核予防ワクチン)と潜在性結核感染症治療しか存在していないが,それでは公衆衛生的な視点からはどちらの有効性が高いだろうか? 米国Public Health ServiceのFerebeeは,彼女のよく知られた文書で単純なモデル計算をもとに,広範囲に行えば潜在性結核感染症治療のほうが結核患者数を減少させるという意味から言えば,効果は高いとしている2).このモデル計算では,感染危険率の低下した状態の米国で発生する結核患者の80%が既感染者集団,すなわち既感染プールから発病するという仮定のもと,年月をかけて(Ferebeeは全米の公衆衛生機関が毎年200万人の既感染者に潜在性結核感染症治療を行うという仮定をしている)全米国民にほぼ無差別的に(Ferebeeは接触者や糖尿病患者など高リスク者を優先的にと述べているが,時間的な優先という意味であろう)ツベルクリン反応を実施し,陽性者は潜在性結核感染症治療の対象にするといったことを想定していたようである.
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