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「パブリック」ということ
1985(昭和60)年に自治体の設置する公共図書館(Public Library)から,国立公衆衛生院附属図書館(現,国立保健医療科学院図書館)へ異動したのですが,着任当初は「公衆衛生」という言葉を大して理解もせず,そこでの図書館の仕事をはじめていたと思います.しかし,今では公衆衛生(Public Health)は公共下水道,公共交通など,住民の生活基盤を支えている多くの「公共(Public=パブリック)」という言葉を冠される大切な概念だと思っています.特に昨春,退官してからは,地元,東京都練馬区の公共図書館,東京都立中央図書館,あるいは武蔵大学,東京大学など,公開されている図書館のヘビーユーザーとなりました.公共財の豊かさ,利用しやすさの大切さを,利用者の視点から実感する毎日です.
公共図書館時代は,本を車に2,000冊ほど積み,住民の中を巡回する「移動図書館」を皮切りに,資料の貸出・提供,児童へのサービスを自治体全域で行うことが,私の仕事の柱でした.住民の「誰にでも」「どこでも」「いつでも」そして「求められるあらゆる資料」を無償で迅速に提供することが仕事の基本です.それは1970年代の「市民の図書館」の誕生と共に歩んでいたと思います.その仕事は「本を読むことは善である(本を読む力を育成する)」ことへの可能性に賭けることでもありました.表面的には,住民の利用率(登録率,貸し出し冊数)を上げることが重要な目標であり,そのためには資料購入費と人材の確保増強が生命線となります.毎年の数値が上がっていくことは,目に見える効果として,住民,議会などに報告・評価され,その結果は財政措置として反映されていきます.順調に進んでいる限り,日々の労苦は報われていきます.そして何より日々の仕事を支えてくれるのは,読みたい本を届けることができた時の利用者からの「ありがとう」というひとことです.特に子どもたちは素直に反応してくれます.まさに子どもは未来ですね.
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