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はじめに
慢性腎臓病(以下,CKD)とは,2002年に米国腎臓財団(以下,NKF)が初めて提唱した概念で,原疾患を問わず,慢性に経過する腎臓病を包括し,腎機能によって重症度を規定し標記している.この概念が,グローバルに広く受け入れられ,腎臓病診療の標準化に大いに寄与するに至っている1).早期のCKDは知らないうちに,つまり無症状で進行することが多く,silent-killerとも呼称される.治療しないままでは,末期腎臓病(以下,ESKD)や早期の心血管疾患(以下,CVD)の原因により死亡する危険性がある.CKDを発見する唯一の方法は,腎機能を評価する血液検査および腎臓の損傷を評価する尿検査である.
CKDが発見されると病気の進行を抑制,ESKDへの進展を予防または遅らせるために,生活習慣の改善や薬剤などによる治療を行う.しかし,ESKDの治療の選択肢は,透析または腎移植のみである.
世界保健機関(以下,WHO)は,世界の死亡例全体の60%が非感染性疾患(Noncommunicable disease:以下,NCD)で占められていること,特に低中所得国での死亡が多いことを指摘し,NCDが世界経済の発展において,最も深刻な脅威であるとしている.WHOでは密接にタバコ,不健康な食事,運動不足および過度の飲酒などの共通の生活習慣のリスクの関与が明白である心血管系疾患,がん,糖尿病,慢性呼吸器疾患を4大疾病としてフォーカスを当て,予防と対策を行っている.CKDはその70%が高血圧症と糖尿病に由来しており,同様のリスクファクターを有することが認識され,2011年9月に国連総会のハイレベルサミットで,腎臓病が初めて生活習慣に起因する疾患であると,政治宣言がなされた2).
2011年末現在,わが国の透析患者は30万人を超え,世界でも米国と台湾に次いで高い透析人口比率(100万人あたり2,060人)である.さらに世界的に見た場合,今後も透析患者は増加することが予測され,経済的にも大きな問題となっている.平成23(2011)年度の概算医療費の動向によると,総額は37.8兆円で,前年度に比較し1,500億円,率にして3.1%の伸びで,9年連続の増加で過去最高を更新している.一般医療費の主病傷による傷病分類別では,腎尿路生殖系疾患が医療費の構成比で5位にランクされ,金額は約1兆4千億円,また国民総医療費では約4%を計上している.
CKDは多くの人々が罹患し,その数が今後も増え続けると予測され,人々は死亡,罹患,QOL(quality of life)およびコストといった形で,特に多くは高齢者層で負担する.アップストリーム予防戦略が負担状況を改善することが明らかであるが,未だ解決がなされていない.これらはCKDは世界中の大きな公衆衛生の問題となる所以である.急増するCKDという社会的,経済的および健康上の課題に取り組むためには,管理・抑制のための臨床的アプローチの補完策として,より広範かつ協調的な公衆衛生面でのアプローチが必要である3).つまり,透析患者の予備軍とも言えるCKDの早期発見および進行抑制が重要であり,そのためCKDの早期発見には,健診事業が重要な位置を占める.
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