- 有料閲覧
- 文献概要
政府は3月以来震災の対応で忙殺されている一方,社会保障・税の一体改革が大きな課題として浮上してきている.近年少子高齢化社会の特徴として,いずれの先進国においても社会保障は常に最重要課題であり,政治を左右する時代となってきた.数年前国会において,後期高齢者医療制度を立ち上げるにあたり,高齢者の保険料を年金から自動的に差し引くという議論と,終末期延命処置中止のインフォームド・コンセントが書面により確認できれば保険点数200点請求できるということに関する論争があり,これがきっかけで政権交代につながった.アメリカでは最近フロリダ州最高裁で健康保険の強制加入は違憲であるとの判決が出た.日米は内容が異なるにしても,経済不振のなかで,社会保障の財源をどう扱うかが大きな課題である.
数年前の終末期医療論争のとき,筆者はこのことに関する研究班を担当しており,「論点は倫理面に限るべきで,医療費と関連づけて議論すべきでない」と主張した.その理由は,この問題は単なる終末期の問題ではなく,要するに判断能力が不十分かそれを失った人の医療のあり方全般にかかわる問題と意識したからである.特に高齢社会を迎えた今日において,認知症に至らなくても,自分に行われる医療が妥当であると判断できる一線を引くことは必ずしも容易ではない.実際,判断のサポートシステムが日本には構築されているとは言い難い.例えば,施設に入居している身寄りのない認知症の老人に予防接種を実施するにしても,医師が万が一の副作用を心配して戸惑うのは,むしろ良心的と言えるかもしれない.平成12年以前の民法にあった禁治産者制度を廃止した後にできた成年後見制は,確かに判断をサポートするシステムであり,大きな進歩と言えるが,その歴史は日本では10年程度である.成年後見制は基本的には財産管理に関する事項であり,医療については何も触れていない.法律家の間では,医療の判断はしたがって含まれないと解釈している.精神保健法にある保護義務者は,財産管理より一歩踏み込んで精神疾患の治療について意見を表明することはできるが,身体的な疾患については意見陳述を認められていない.最近法曹界の一部から「成年後見制に医療を加えよ」との主張が出ている.
Copyright © 2011, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.