予防と臨床のはざまで
釜石・大槌地区訪問(2)
福田 洋
1
1順天堂大学医学部総合診療科
pp.738
発行日 2011年9月15日
Published Date 2011/9/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1401102222
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前号からの続きです.4月26日午前は,SMC(株)釜石工場社内の体調不良者の面談を行いました.社員の中には大槌町で被災し,かろうじて残った家から毎日工場に通っている方もいます.被災した親戚も自宅に身を寄せ,帰宅しても気が休まらず,また社員の出勤不足や夏の節電を見越した増産などで業務も増えています.「震災後,眠れなくなったり,気持ちが落ち込んだりしていませんか?」などとしか聞けない自分に比べ,川原看護師は「地震の時どうだった?どうやって家に帰った?」「今の辛さ,上司の○○さんに言えている?」などと,地域と職場の実情を把握する産業看護職として,実に良い問いかけをしていました.
その後,工場内の仮設住宅を巡視.当時,市内のいたるところで急ピッチで仮設住宅の設置が進められていましたが,それでも連休明けの入居がやっと,という状況でした.震災後すぐに着工され3月末には入居できた仮設住宅は,社員にとって,とても心強い支援だったようです.息子さんが社員で,仮設住宅の掃除に来ていた母親とお会いしました.家財はすべて津波で流されたため,着ているものもすべて支援物資だと言います.多くの人との避難生活も長引き,時には一人になりたくなる,この仮設住宅には感謝していると話されました.瓦礫からただ1つ見つかったという家族の昔のアルバムは,泥だらけでしたが大切にビニール袋に入れられていました.それまで元気に話されていたのが,急に涙ぐみ,私たちは落ち着くまでじっと待ちました.帰り際に,東京から持参したお土産の鳩サブレーを渡し,「何かありましたらご相談下さい」とRescue311のカードを手渡しました
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