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はじめに―長寿化と疫学的転換
近代化とともに寿命が伸長した過程は,疫学的転換(epidemiologic transition)として理論的に整理されている.それは感染症の撲滅を主要な原因とした死因構造の変化にともなう死亡率低下の過程である.理論の中では人類の死亡の歴史を4段階に分けている(表1).このような疫学的転換は人々の生存確率を変え,ライフサイクルの姿を全く違ったものにした.それによって人生の時刻表は大きく変わるとともに,社会経済全体をも変えることとなった1~3).
まず挙げられるのは,今後の死亡数の増大と人口構造の変化である.寿命が伸長している社会で,死亡数が増大するということは一見矛盾のように思えるが,過去の長寿化によって順送りになってきた死亡が今後に現れて来るため,死亡数は急速な増加を示す.現在の年間死亡者数は約110万人であるが,団塊の世代がその死亡ピークを迎える2030年頃には,約160万人に増加すると推定され,その受け皿(=死亡の場合)について深刻な問題をはらんでいる.
さらに,長寿化は今後の人口高齢化の一因となる.ただし,人口高齢化を引き起こす主因は出生率の低下,すなわち「少子化」である.フランスと日本は,長寿化において肩を並べるが,出生率では現在フランスが人口置き換え水準付近にあるのに対して,日本ではその2/3程度しかない.その結果,将来人口の年齢構成は大きく異なり,日本では人口高齢化が著しく進行する.
すなわち,長寿化と高齢化は異なる現象であることを理解する必要がある.日本では少子化と長寿化が重なることにより,世界でも飛び抜けた人口高齢化を経験することになる.その中で長寿化は,より高い年齢層の割合を増大させる効果を持ち,いわゆる高齢人口の高齢化を引き起こすことになる.具体的には,虚弱化が顕著となる後期高齢者の著しい増加である.もうひとつの見過ごすことのできない問題は,今後の高齢化率の伸びが著しく現れるのが大都市圏という点である.農村部などの地方と異なり,大都市圏には特有の高齢者を取り巻く環境(高齢者世帯や一人暮らし等)が存在し,今後のソーシャルサポート等の問題がより顕在化してくる.
本稿では,このようなわが国の直面するいわば超高齢社会において,高齢者の健康水準がどういう状況にあるのか,高齢期における疾病予防と介護予防はどう調整しておくべきなのか,等の視点から,今後の健康福祉施策についての糸口を提示したいと考えている.
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