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はじめに―高齢社会観
人口の高齢化が言われ始めて久しい.昭和45年(1970年)に高齢化率(65歳以上人口が人口全体に占める率)が7%を越え,いわゆる高齢化社会に突入した.平成2年10月にはこの率が12%に達し,紀元2000年には17%になることが予測されている,7%から14%に倍増するのにわずか25年しか要しないことになる.そして,この速さはフランスにおける高齢化の実に5倍のスピードである.
きわめて大ざっぱに言えば,わが国の人口高齢化率は,2025年≒高齢化率最高≒25%ということになるが,ここで問題なのは,25%という率以上に,他の先進国に例を見ないスピードである.社会構造の変化とそこからくるさまざまのニーズに対応することは,まさにこのスピードとの闘いといえる.
戦後,わが国では,都市化という社会構造の変化に対応がついていけなかった,都市政策(土地政策)において,他の先進国に大きく遅れをとったことは誰しも認めるところである.今度こそ,この人口高齢化という先進国共通の変化に遅れることなく,適切に対応していくことが求められている.よく先を見通しつつ,計画的に,そして勇気を持って.
人口の高齢化が引き起こすさまざまの影響は,単に福祉,保健,医療にとどまらない.労働力,国民生産,国民負担といった経済的側面はもちろんのこと,社会の活力,文化活動,教育,コミュニティといった社会的,文化的な分野にもその影響は及ぶ.すなわち人口の高齢化は社会の構造の変化そのものであるから,社会を構成しているあらゆる分野にその影響が及ぶのは当然である.とかく人口の高齢化が社会保障費の増大,年金の問題,保健・医療・福祉の分野に片寄って語られることは,ことの緊急性からみて仕方ないともいえるが,しかし,そのあまりに片寄った高齢社会観は高齢社会を暗いものにし過ぎるおそれがある.人口の高齢化は一面,元気な高齢者が数多くいるということでもあり,何よりもその国民の健康度を表しているともいえよう,人生とか,政治とか経済の最終目的は何か.おそらく,その国に生を得た人間が「長生きをしてよかった]と実感できる,そういった世づくりではあるまいか.
また人口高齢化は例外なき現象であることを忘れてはならない,交通事故に遭いたくないと思えば車に乗らなければよい,あるいは外を出歩くことを避ければよい.しかし,この高齢化,すなわち加齢という現象は,どこでどんな生活をしていても,1人の例外なく現れてくることである.例外がないということは,逃げようがないということであるが,見方を変えれば国民一人一人自分自身の問題,すなわち国民全体の問題であるということでもある.
したがって筆者は,人口の高齢化における社会づくりは,国民一人一人が自分のこととして,老いも若きも,男も女も,アマもプロも,積極的に関わっていくべきものと考えるのである.
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