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はじめに
少子高齢時代に入ったわが国は,小児の保健・医療の分野でも,変革を余儀なくされている.特に小児救急医療に関しては,保護者にとっても医療従事者にとっても,最も喫緊の解決しなければならない課題となっている.
平成16年,子ども家庭総合研究事業(厚生科研鴨下班)でまとめた小児医療に関する今後10年の重要課題の中に,「小児保健の充実」と並んで,「小児救急体制の整備」が挙げられていることからも,わが国の重要施策の一つとなっていることがわかる1).
第二次世界大戦後,日本の小児保健・医療は量の確保の時代から,次第に質の充実の時代に変わってきた.特に,団塊の世代が子どもの保護者となる昭和60年代からのバブル景気は,子育て環境にも大きな影響を及ぼした.国民総中産階級意識,情報の氾濫,個人主義の台頭,権利意識の高揚などがその原因となった.特に,女性の労働力を求める社会の要望は母親としての女性を,労働者としての女性に変えていった.その結果,子育てを社会資源に依存する傾向が顕著になってきた.働く母親の要望は,保育所が足りない,時間外や夜間の診療をしてほしい,少ない大切なわが子は小児科専門医に診てもらいたい,医療費をもっと安価に,などの声になって噴出してきた.
一方,医療提供側や小児科医自身の事情は,保護者の要望に必ずしも十分な対応ができるほどの準備ができていなかった.病院勤務小児科医の過労,時間と手間のかかる小児医療に対して,医療保険制度の無理解などが,次第に病院内の小児科部門の衰退を招いた.病院の小児科勤務医は,もっと楽に仕事のできる小児科診療所に移動していった.さらに現在,診療所小児科医たちも高齢化してきた.
「小児科医が足りない」という国民的不満が平成10年頃から叫ばれている.本当に,小児科医は足りないのであろうか? 本当に足りないのであれば,どのような方策があるのであろうか? 小児救急医療の課題の中で,その問題を浮き彫りにして,本稿では平成22年前半までの成果と,これからの課題について述べてみる.
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