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はじめに
ヒトゲノム計画によるヒトゲノムの全塩基配列の決定1),国際HapMap計画注1)による白人・黒人・中国人・日本人における一塩基多型(SNP)やハプロタイプの決定およびタグSNPsの特定2),またcDNAマイクロアレイやSNPチップなどによる大量の情報解析技術の発達によって,個人個人における遺伝情報の相違を検出することが可能になった.これらの情報を利用して,ある個人に最適な予防法や治療法を選択することを個別化医療(オーダーメイド医療)という.従来のレディーメイド医療では,病気の種類や重症度に応じて投薬されていたが,薬効に個人差があり,副作用が出る可能性もあった.ゲノム情報を基盤とする治療法では,投薬前から治療効果や副作用を予測出来るため,安全かつ有効な治療が可能になると期待されている.また,疾患の病態が遺伝子レベルで解明され,疾患感受性遺伝子など個人の遺伝要因も明らかになってきた.生活習慣病においても20~70%は遺伝要因が関与していると考えられるため,遺伝子多型情報に基づくアプローチは,生活習慣病の予防対策にも貢献すると考えられる.またゲノム創薬による新薬の開発により,今後治療成績が飛躍的に向上する可能性もある.
日本では,悪性腫瘍に続き心疾患と脳血管障害が死因の第2位と第3位を占める.厚生労働省の統計によれば,わが国の平成17年の冠動脈疾患の患者総数は86万3千人であり,毎年4万5千人が心筋梗塞により死亡している.また,脳血管障害の患者総数は137万人であり(脳梗塞61%,脳出血25%,くも膜下出血11%,その他3%),毎年13万人が脳血管障害により死亡している.近年,医療技術の発達により心筋梗塞や脳血管障害の発症後の治療法は格段に進歩したが,予防対策は未だ十分とは言えない.また塩分や脂肪摂取の制限など従来の予防法は集団としては一定の効果が認められるが,必ずしもすべての人にとって有効とは言えない.高齢化社会を迎えたわが国においては,心筋梗塞や脳血管障害の発症に関連する遺伝要因を確定し,個別化予防を積極的に推進することが,個人や家族のみならず,社会的にも重要である.
本稿では,心筋梗塞・冠動脈疾患および脳血管障害のゲノム疫学研究の現状と,今後の臨床応用について概説する.
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