沈思黙考
「幸福」を考える・1
林 謙治
1
1国立保健医療科学院
pp.666
発行日 2010年8月15日
Published Date 2010/8/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1401101887
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前回,国民の最低限の生活が保障されるべきという憲法上の概念を具体化する際に,どのような考え方ができるかという問題提起をした.つまり生活上の保障は経済的な観点からのみ規定するのか,それとも健康,教育,人権の保護を含めるのか,さらにある程度の文化的な生活,芸術活動の充実などトータルとしてとらえるのか,ということである.
たぶん多くの人は何をさておき,まず経済問題から入るべきだと主張するだろう.確かに生活が極端に困窮する人々がおり,国が福祉政策を通して保護すべきである考えに反対する人はいない.問題は線引きの仕方である.このことはコンセンサスの問題であるために,つねに政治的である.一方,自分が社会のなかでどのような立場でいるか,という自己認知は相対的である.周りが豊かであれば自分はみじめだと思うだろう.発展途上国の極貧層に比べて豊かであっても,日本国内では貧困と見なされ,あるいはそのように自覚するだろう.そうであるとすれば,例え国が経済発展をめざし,1人当たりのGDPを増やしても,格差がある限り個人の貧困感はなくならない.そこで所得再分配を通して,格差を縮小すれば,問題が解決するという結論に達するかもしれない.
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