映画の時間
花に話しかけ 木に耳をすませて 心のままに私は描く セラフィーヌの庭
桜山 豊夫
pp.657
発行日 2010年8月15日
Published Date 2010/8/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1401101886
- 有料閲覧
- 文献概要
裕福には見えない女性が,部屋の掃除をしているシーンから映画が始まります.家の主人らしい女性から残り物の食事を貰って帰ります.生活は苦しそう.どう見ても主役とは思えない,この中年の女性が,今月紹介する「セラフィーヌの庭」の主人公です.主人公セラフィーヌを演ずるヨランド・モローには失礼なことを書きましたが,冒頭のシーンから,観客はこの不思議な女性の雰囲気に引き込まれていきます.1人暮らしのセラフィーヌは軽度の精神発達遅滞のようです.食うや食わずの生活のなかでも,教会では聖歌を歌い,神を賛美する彼女ですが,仕事が終わると部屋にこもって,一心不乱に絵を描いています.彼女にとっては絵を描くことは神からの啓示であり,神を賛美することなのです.が,同時に絵を描くことで,彼女自身が癒されてもいるのでしょう.
彼女の暮らすフランスの地方都市にドイツ人の画商ウーデ(ウルリッヒ・トゥクール)が静養のために訪れ,家政婦をしているセラフィーヌの描いた花の絵を見て感動します.彼女の才能を見抜いたウーデの勧めもあって,セラフィーヌは個展の開催を夢見て,絵を描き続けます.しかし第一次世界大戦,大恐慌,第二次世界大戦と続く時代のうねりは,セラフィーヌやウーデを呑みこんでいきます.
Copyright © 2010, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.