特集 環境リスク
メチル水銀曝露の多様性と健康リスク
村田 勝敬
1
,
坂本 峰至
2
,
佐藤 洋
3
1秋田大学大学院医学系研究科環境保健学
2国立水俣病総合研究センター疫学研究部
3東北大学大学院医学系研究科環境保健医学
pp.279-283
発行日 2010年4月15日
Published Date 2010/4/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1401101771
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はじめに
平成15年6月3日に厚生労働省より発表された「水銀を含有する魚介類等の摂食に関する注意事項」以後,メチル水銀の健康影響に関する怪情報が世間を騒がせた.マスメディアによるキンメダイやサメを食べるとあたかも水俣病になるが如き報道の混乱も当初あった.しかし,喉もと過ぎれば人々の関心も薄れる.昨今の現役医学生に「メチル水銀について何か知っている?」と尋ねても「過去に水俣病がありました」と受験勉強で知り得た知識以上のことは出てこない.その当時から今日まで生き続けている言葉と言えば「リスクコミュニケーション」と「食品安全委員会」(平成15年7月1日設置)くらいであろう.
日本の高度経済成長期に突入する前の昭和31年5月1日に公式記録された水俣病は,チッソ水俣工場から排出された高濃度メチル水銀に汚染された魚介類を多食した人々に発症したメチル水銀中毒である.成人型水俣病は感覚障害,運動失調,視野狭窄などの中枢神経症状を主徴とした.胎児性水俣病では新生児期から発育・運動機能の発達遅延の他に,脳性麻痺に酷似した症状を示し,小児期以後は知能,神経機能の両面の発達の遅れが著明であった.このような臨床徴候が揃っている重症患者におけるメチル水銀中毒の鑑別診断は比較的容易であるが,症状が一部しか見られない場合に診断は困難を窮める1).
本稿では,水俣病やその補償・救済の歴史などには触れず,低濃度メチル水銀曝露の神経および心血管影響に焦点を当てたリスク評価の最前線を述べる.また,メチル水銀中毒に近い臨床症状を示す金属水銀をめぐる最近の話題にも触れる.
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