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はじめに
平成18年11月4日,私たちは福岡県久留米市で〈子や孫に安心,安全を〉「11.4市民フォーラムin久留米」という集会を開きました.久留米市は,たまたま平成17年2月の町村合併で30万市民の中核市となって,市が自前の「保健所設置」の必要が出てきたこと,それまで20年以上にわたって23万の人口を擁した旧久留米市が行政保健師はただの2人だけ(「日本一保健師の少ない町」),後の保健事業は医師会が後ろ盾となった任意団体(健推協)に業務委託してきたという特殊事情のあった町で,旧4町が採ってきた通常の保健方式と,合併して久留米市がどんな業務形態をとるのか注目されたのです.私が関わらせていただいた月刊『地域保健』(第37巻第9号,2006年)の江藤市長インタビューで,市の当局が平成19年4月を期して新たに健康公社(「健康づくり財団」)を立ち上げ,その団体に保健業務の全委託する方向で考えているとわかり,新保健所の設置問題と共に市民の生命や健康を守る行政の公的責任,また市民がやるべきことは何か,広く専門家や市民の意見を聞く場を作ろうということで計画されたものです(詳報は次号).保健行政や公衆衛生の専門家の唱導によってではなく,市民の手で企画し,市民のために開かれた「11.4フォーラム」の案内には,こんな呼びかけがありました.
〈連日のように子どもや高齢者の痛ましい事故・事件が報道され,個人も社会も暮らしにくくなっている昨今です.子や孫や私たちの健康と命を守り,住みよい社会を残していくには,何が必要か,家族や地域で取り組めることはないか,行政の力が必要なことはどんなことなのか,このようなことを中核市を目前にした久留米で考えてみませんか.〉
私はかねがね一ジャーナリストとして,この「公衆衛生」という分野について,広く世間一般の人が自分たちの問題として「people=public」の生命や健康をどう守るかを考え取り組めるようになることが大事だと思ってきました.毎日報道される教育現場のいじめや自殺,子どもの虐待,後を絶たない飲酒運転の事故,相次ぐ公的施設管理を民間委託して起きた事故,想定外の規模で住民の生命や暮らしを奪う天災(人災)の多発,核燃廃棄物から産廃,生活ゴミまで広がる環境汚染,食中毒,感染症への衛生的対応もあります.一方,エイズやハンセン病,難病・精神患者などへの社会的偏見・差別,格差・使い捨てを認めてしまう社会,人権よりも経済効率と管理社会,職場も学校も家庭も地域社会も,どこにも「安心安全」の拠り所が探せなくなっているというのが,すでに世間一般の感覚として広がっています.
こうしたもろもろすべてが,私たちの「公衆衛生(パブリックヘルス)」の問題であり,それは日常的に相乗的に複合的に「私たち」を取り囲んでいます.その意味で,このように,市民が同じ市民と(行政主導でなく)自分たちの問題として市民の将来にわたる「安全安心」のあり方を考える呼びかけが始まっていることは,注目していいと思います.
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