- 有料閲覧
- 文献概要
- 1ページ目
- 参考文献
1996年,西日本を中心に発生した腸管出血性大腸菌O157アウトブレイクが1つのきっかけとなって,1999年に日本の実地疫学専門家養成コース(Field Epidemiology Training Program: FETP)が誕生したように,世界中の多くの国や地域で,各々の背景によってFETPが誕生,運営されている.世界中のFETPのネットワークであるTEPHINET(Training Programs in Epidemiology and Public Health Interventions NETwork)には,2006年3月現在32の国や地域で,FETPもしくは同等のプログラム(以下,FETP等)が参加している.各FETPは,すべて2年間のon-the-job trainingであり,実際の感染症集団発生事例の現地疫学調査の実施等を通してトレーニングを行っている.日本以外のプログラムは,研修生に対し給与が支給され,公衆衛生上の疫学サービスの提供が求められている.各々の研修員や修了生の多くは,担当地域の感染症サーベイランス業務やアウトブレイク調査などに従事しているが,必要な場合には,国際的な連携のもとで,国境を越えた疫学調査にあたることも少なくない.
SARSなどの集団発生疫学調査における世界のFETP等修了生の役割
SARS(重症急性呼吸器症候群)は2003年突然現れ,世界中を巻き込んだ後,多くの関係者の多岐にわたる献身的な努力の末封じ込められた(現在のところ再流行は起こっていない).ベトナムの原因不明呼吸器感染症の院内発生で初めて認識されたSARSは,当初,以下のような特徴を備えていた.突然の出現,原因不明(あらゆる病原体検索も陰性),有効な治療法なし(様々な抗菌薬・抗ウイルス薬投与に反応しない),医療従事者の発病,重症化・死亡者の発生,複数国でのほぼ同時期の発生,などである.国際的な緊急支援が必要と判断した世界保健機関(WHO)西太平洋地域事務局(WPRO)では,GOARN(Global Outbreak Alert and Response Network:世界的な集団発生事例に対する警戒と対応のためのネットワーク)を通じ,参加国やパートナー組織に要請し,緊急支援チームを組織した(GOARNとは,国際的な集団発生支援を行うグローバルなネットワークで,2000年に設立された.ジュネーブのWHO本部内に事務局を持ち,世界各国の様々な分野の組織が参加している).主な支援分野は,臨床マネジメント,感染予防(臨床分野),病原体検索支援(ラボ分野),疫学調査支援(疫学分野)であった.
Copyright © 2006, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.