特集 越境!公衆衛生
事前対応型の感染症対策の現状と将来
三宅 智
1
1厚生労働省国立感染症研究所企画調整主幹
pp.446-450
発行日 2006年6月1日
Published Date 2006/6/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1401100580
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SARS(重症急性呼吸器症候群)に続き,鳥インフルエンザH5N1型がヒト-ヒト感染を起こす新型インフルエンザへ変異する可能性に対して危機感が高まっている.抗生物質やワクチン,衛生対策の向上などにより,先進国では感染症の脅威はもはや過去のもののように感じられた時期もあった.しかし,様々な新興・再興感染症の出現やバイオテロの可能性は,人類と病原体との闘いが一筋縄ではいかないものであり,様々な分野,組織が協力して取り組むべき課題であると,再びわれわれに投げかけてきている.
感染症対策の歴史
感染症は,発展途上国を含めた地球規模で見て,結核,マラリア,エイズ,腸管感染症など,現在も人類にとって最大の健康に対する脅威となっている.先進国においても中世から近世に至るまで,健康に対する最大の脅威は感染症であった.世界で最も高いレベルの平均寿命,健康寿命を誇るわが国でも,50~60年前の戦後間もない時期においては,終戦後1年目で天然痘患者が1万7千人以上発生し,南方や大陸からの帰国者も含めると,コレラによる死者が1万1千人,戦前においては1年間に4~5万人の腸チフス患者が発生し,6千から1万2千人が死亡したとのことである1).
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