連載 公衆衛生ドキュメント―「生きる」とは何か・9
水俣病の奉納劇,新作能「不知火」
桑原 史成
pp.930
発行日 2004年12月1日
Published Date 2004/12/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1401100528
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2004年10月4日,東京・渋谷のオーチャードホールで,新作能「不知火」が上演された.そのほぼ1カ月前の8月28日には,水俣病事件の発生の地・水俣市で奉納公演されている.
能といえば古典的で難解な演劇と思われがちだが,このたびの「不知火」は,水俣出身の作家・石牟礼道子氏によって,現世に起きた悲劇の事件を素材にして幽玄な美しい物語が作られている.毒により海が汚れ,魚も鳥も猫も人間も死んでいった水俣病の背後に潜む,物質文明に警鐘を鳴らした物語,そしてそこからの回生を願う物語と言ってよかろう.そこには,亡くなったすべてのいのちに捧げる祈りの心があった.舞台での能役者のセリフは独特の“能の言葉”だが,全体の雰囲気から,その意味が理解できるように思われた.
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