連載 赤いコートの女―女性ホームレス物語・9
パイプ役の男性ホームレスを探せ!
宮下 忠子
1
1コミュニティワーカー制度を考える会
pp.423-425
発行日 2005年5月1日
Published Date 2005/5/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1401100094
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波さんの恋
隅田川遊歩道の脇に並ぶ青いテントの一角に,喋りまくる波さんと私は立っていた.波さんは嬉しそうな表情をして,テント内の片付けをしているその男性にしきりに話しかけている.男性は,ニコニコして手を休めることなく聴いている.
「雷門メンタルクリニック」を出た私たちは,パイプ役のホームレスを探しに向かった.果たして示された条件に当てはまる知人のホームレスはいるのか.その条件により近い男性を思い出したのだった.波さんにとって権威の象徴のようなヤクザっぽさには欠けるが,この上ない優しく誠実な人物である.名前を平沢さんといった.私とはボランティア活動で長い付き合いのある人物である.彼であれば波さんの閉ざされた心を開き,語り合える関係になってくれるかもしれない.波さんの,人に対する緊張や恐怖感を感じる心の壁を優しく解きほぐし,路上生活からの脱却を手伝ってくれるかもしれない.
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