特集 弱者への暴力
ホームレスの人への暴力
安江 鈴子
1
1NPO法人新宿ホームレス支援機構
pp.665-668
発行日 2009年9月15日
Published Date 2009/9/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1401101629
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「ホームレスの人への暴力」と言えば,まず挙げられるのが若者による襲撃事件であろう.1983年,横浜の寿町で起きた複数の中学生による「横浜浮浪者連続殺傷事件」(当時の新聞記事の見出し)がその最初のものであろうが,当時,野宿を余儀なくされる人々の問題は,社会的には取り上げられておらず,被害者も差別的呼称である「浮浪者」と表現されている.が,「汚い」「役に立っていない」という(襲撃した10人の中高生を含む若者は「おまえらのせいで横浜が汚くなるんだ」「横浜をきれいにするためゴミ掃除しただけ」と語ったという)思いだけで人を襲撃した若者の出現は,十分衝撃的であった.その後90年代に入って,野宿を余儀なくされる人は急増し,これらの人々の存在自体が大きな社会問題となり,支援する法律も制定されているのは周知のとおりである.
「ホームレスの人への暴力」と言えば,この,若者による襲撃を氷山の一角としてホームレスの人が被っている市民からの嫌がらせを扱うべきであるが,なぜ人がホームレス状態になるかと言えば,人々を路上に押し出す力が働いているからなのであり,筆者などは,この力も「排除」とでも言うべき暴力ではないかと考えているので(岩田正美氏は,「寄せ場」は対策の目的自体が「排除」であった,と述べている1)),本稿ではホームレス問題の社会経済的背景も視野に入れて,若者の襲撃事件や市民のいやがらせをなくすためにはどうすればよいのか考えてみたい.
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