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「グレートジャーニー」で世界の辺境の地を歩いた医師であり探検家の関野吉晴さんと,アフリカ,中東,中米,東南アジアなど世界の紛争地を歩いた写真家の長倉洋海さんは,一昨年『幸福論』(東海教育研究所)という対談集を出版しました.自らの足で世界の大地を歩き,世界の人々に出会ってきた2人が,根源的な人間にとっての「幸福」について,再び語り合います(2004年12月6日,武蔵野美術大学にて).
競争社会とスピードの関係
関野 今日の対談は,“「幸福」ってなんだ?”という大きなテーマですね.最初に競争社会とスピードについて話しますか.
僕が「グレートジャーニー」の旅をしながら,「スピード」ということで一番印象的なのはアマゾンです.だいたいどこかの村に入る時は,いつも「泊めてください.食べさせてください.何でもしますから」と言って入っていきます.最初にアマゾンの先住民に会った時も,僕は「食べさせてください」と言って世話になりました.彼らは,僕がパパイヤが好きだと知ると優先的にくれたり,とても親切にしてくれます.しかし「何でもしますから」と言うものの僕は何もできなくて,森に入っても大人の足手纏いになるだけで,負い目を感じるしかないんですよ.でも1つだけ,それを感じなくてすむことがあった.狩りや魚取りに一緒に行き,陽が傾いてくると暗くなるから帰ろうということになる.彼らは太陽の動きで時間を見ているのです.ところが雲が厚い時,雨の時は時間がわからない.すると僕のところにやってきて「太陽はどこにあるか」と聞く.僕は自分の腕時計を見て「太陽はここだ」と言うと「よくわかるな」と(笑).太陽は彼らにとって,光,エネルギーとしても大切なのですが,時計としての役割も持っている.また1年という時間の感覚などは,雨季が終わって次の雨季が終わったから1年が経ったと自然にわかるわけです.
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