連載 感情ノート・2
感情ノート
manna
pp.492-494
発行日 2025年11月15日
Published Date 2025/11/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.134327610280060492
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1.
夕方が近づいてくると、わたしはさみしくて仕方ありません。どこを見ても真っ暗で、石につまずいて転んでばかりです。大風が吹いて、木々がげらげら笑っています。そのまま崖から落ちてしまえばいいのにねって。歩いていかないと帰れません。だけど、もう疲れてしまいました。だって歩いていてもさまよっているだけで、少しも進んでいるように思えないのです。
まるでおさびし山に登っているみたいだとつぶやきました。我ながら気に入って、それから夕方さみしくなってきたら、おさびし山に登っていることにしました。夕方からはさみしいと言うのが口癖でした。でもそれを何度も聞かされるのは、いやになりますよね。自分もそれ以外に言えることがないとはいえ、さみしい、苦しい、不安だ、と言うのに飽きてきました。もうちょっと、軽やかというか、おもしろい言葉はないかなと思っていました。だからおさびし山みたいとつぶやいたとき、これだと思いました。しんどくなってきたら、今おさびし山に登り始めたよ、とおちゃらけます。これがなんだかよくて、周りもわたし自身も、おさびし山を嫌ったり怖がらなくなりました。

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