視座
感情の記憶
大友 克之
1,2
1朝日大学
2朝日大学歯学部附属村上記念病院整形外科
pp.301-302
発行日 2010年4月25日
Published Date 2010/4/25
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1408101704
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整形外科医の道を歩み始め,多くの師と巡り合うことができた.平成3年,順天堂大学整形外科学教室に入局した.山内裕雄教授が持っておられた幅広い知識と国際的な視野に憧れその門を叩いた.2年間の研修医,それに続く4年間の大学院生活では,教授の下を訪れる多くの海外からの客人を接待する機会を得た.東京出身ということで任命されたのであろうが,浅学の身としては教授が与えてくださった,まさにOJTであったと思っている.ホテルへお迎えに上がり皇居から浅草見学,そして同伴される奥様が喜ぶデパートでの「お買い物」がお決まりのコースであった.米国の先生をご案内した時のことだった.道中「君は骨折の教科書は何を使っているのか?」と尋ねられ,新版が出たという理由から当時の指導医から譲り受けた「Fractures」を使っていると答えた.すると「誰が書いたものだ?」との質問に「ロックッドグリーンです」と返した(その発音は極めてひらがなに近かったと思う).先生は笑みを浮かべながら訪日のために作った名刺を取り出し「I am David P Green.」と.意味がわからずぽかんとしていると,今度はゆっくりとした口調で「Dr. Rockwood」,そして少し間をおいて「and Green」とおっしゃり,その時初めて,自分がFracturesの著者であるGreen先生を案内していることに気付いた.それまで同書は「ロックッドグリーン」という名前のお一人の先生が書いたものだと信じていた.顔から火が出るほどはずかしい思いをした.以来,人と会う際には事前の情報収集を欠かさないという社会人としての基本的なマナーを身に付けた.
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