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私が緩和ケアを知ったのは,「重度の認知症の人」と出会ったことがきっかけでした.緩和ケアは,従来はがん終末期患者を主対象として実践されてきましたが,文献を読み進めると認知症に対しても緩和ケアの適用が拡大し,一般的になりつつあることを20年近く前に知りました.アルツハイマー病等,進行性の神経変性疾患は根治が難しいため,残された期間を,対象者が自分らしくあり続け,最期まで幸せを感じていただけるためには,どのようにかかわればよいのか考える必要がありました.抗菌薬治療や胃瘻等の積極的治療は生存日数を有意に延長しなかったと報告する研究も多く,しかも,認知症は,がんとは異なり終末期の始まりが判然としないため,セラピストや家族にとって,心の準備や治療・ケア計画の立案に難しいことも多いです.
重度認知症の緩和ケアでは,身体的苦痛緩和と心理社会的な支援の両立が求められ,身体的苦痛に対しては,疼痛管理,褥瘡予防,栄養・水分管理,感染症の予防といった,基本的かつ包括的な身体管理が不可欠です.これは,主に医師や看護師がその役割を担うと思います.そのうえで作業療法士にできることは何があるか? 日々悩みながら考えてきました.当時,あらためて「重度認知症におけるQoL」について勉強して,そこで出会ったのが,図で示すような概念図でした.当時の私にとってはすごくわかりやすく,印象に残っているもので,この概念図は,上述の身体的苦痛に相当する「医療的課題」,心理社会面に相当する「精神症候」,そして,作業療法士が最も得意とする「意義ある活動」で構成されており,これらの領域を支援することが重要であることを知りました.当時の理解は浅かったのですが,この観点から,今を大切にしてQOLを真剣に考えました.特に,作業療法士は「意義ある活動」を作業の視点から介入するため,本人にとって病前の好みや生活歴を確認し,笑顔になれる作業,苦痛を緩和できる作業,を実践してきたつもりです.
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