連載 車椅子・歩行補助具の選び方・第3回
成人の歩行器と杖の選び方
榎 勇人
1
Hayato ENOKI
1
1高知健康科学大学健康科学部リハビリテーション学科理学療法学専攻
キーワード:
歩行器
,
杖
,
選定基準
Keyword:
歩行器
,
杖
,
選定基準
pp.1111-1115
発行日 2025年9月15日
Published Date 2025/9/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.091505520590091111
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はじめに
2022年の国民生活基礎調査1)によると,介護が必要となった主な原因は,骨折・転倒が第3位(13.9%)と高率であった.その転倒に対する予防・対策には,杖や歩行器などの歩行補助具の使用も含まれるが,使用の決定や選定について,現状では一定の基準などは設けられていない.実際に歩行補助具使用を検討する際には,歩行能力や疾患の状態などを総合的に考慮する必要があり,特に歩行能力,バランス能力,筋力については,転倒との関連性が高い2)とされているため,重要な要素である.
本邦における研究3,4)から,歩行速度の測定によって転倒ハイリスク者をスクリーニングすることができると考えられるため,歩行速度は転倒予防に有効な指標の一つとなり得る.歩行速度の指標としては,1.0m/s未満では健康関連の有害事象リスクが高いとする報告5)や,1.0m/s以上の人は予想生存年数よりも生存期間が長いとする報告6)がある.また,歩行速度変化に関する報告では,歩行速度が0.1m/s増減することで死亡リスクや健康状態,身体機能も変化するという報告6,7)などがある.これらの報告から,歩行速度1.0m/s未満が歩行補助具を使用する目安になり,1.0m/s以上で歩ける症例であっても,速度が0.1m/s以上低下すると注意を要すると考えられる.
ここで挙げた歩行速度以外にも,歩行補助具使用の判断に際して考慮されるべき点はあるが,紙幅の都合上,詳細は他稿に譲ることとし,本稿では成人の,特に高齢者を対象とした歩行補助具の種類や選定について,代表的な歩行補助具の特徴や留意すべき点などに触れながら解説する.

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