小児のDown症候群に伴う上位頸椎病変—特に歯突起骨，環軸椎亜脱臼について

Upper Cervical Spine Abnormalities Associated with Down Syndrome in Children

はじめに

　Down症候群は，最も頻度の高い染色体異常の1つであり，その発生頻度はおよそ600〜800出生に1人とされる．21番染色体の全体または一部の重複によって生じる先天異常症候群であり，特徴的顔貌，筋緊張低下，関節弛緩，精神運動発達の遅れなど，全身にわたる多様な臨床的特徴を呈する．

　また，心内膜床欠損症や心室中隔欠損症に代表される先天性心疾患，十二指腸閉鎖や鎖肛などの消化器疾患といった，生後早期から治療介入を要する重篤な合併症を伴うことも少なくない．一方で，歯突起骨や環軸椎亜脱臼といった上位頸椎病変は，精神運動発達遅滞や訴えの乏しさにより見過ごされることがあるが，一度発生すると中枢性呼吸不全，四肢麻痺，突然死など重篤な病態を引き起こすため，診療の場において医療者が常に念頭に置いて観察・評価することが求められる．

　本稿では，小児のDown症候群に合併する上位頸椎病変について，その解剖学的背景と臨床的意義，診断と治療の実際を概説する．