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はじめに
神経疾患は多岐にわたるが,その中で治療法の進歩が著しい免疫性神経疾患が近年注目されている.免疫性神経疾患は免疫異常によって生じる神経疾患の総称であり,多発性硬化症,視神経脊髄炎スペクトラム障害,重症筋無力症,Guillain-Barré症候群などの比較的よく知られた疾患から,stiff person症候群(stiff-person syndrome:SPS)やIsaacs症候群のようにまれなものまで多彩である.
SPSは,体幹を主部位として間欠的に筋硬直や筋攣縮が発生し,進行すると全身に波及する疾患である.1956年にメイヨークリニックのMoerschとWoltman19)によりはじめてprogressive fluctuating muscular rigidity and spasm(stiff-man syndrome)として報告された.その後,女性にも認められることより,stiff-person syndromeと称されるようになった.1967年にはGordonら10)によって診断基準が作成され,1990年に本症候群でグルタミン酸脱炭酸酵素(glutamate decarboxylase:GAD)に対する自己抗体が存在することが報告され,本症候群が免疫異常により起こる神経疾患である可能性が示された25).その後,数種類の自己抗体が知られるようになり,SPSの病型の1つであるprogressive encephalomyelitis with rigidity and myoclonus(PERM)において抗グリシン受容体(glycine receptor:GlyR)抗体が高頻度に検出されることも報告された12).
SPS患者は,疼痛を伴う腰背部のこわばり,姿勢異常,歩行障害,転倒などを主訴にまず整形外科や脊椎外科を受診することがある9,13).まれな疾患で診断が容易にできないことに加え,しばしば症状が日内,日ごとに変動し,画像所見にも乏しいため,心因性として誤診されることも少なくないが,上記の臨床症状を呈していればSPSを鑑別に挙げることが重要である.音・接触・寒冷・情動で悪化する有痛性筋攣縮や,ジアゼパムで症状が速やかに軽減することは本症候群を疑う糸口となる4,5).
SPSは非常にまれな疾患であるため,われわれの経験例をまず提示する.
【症例:40歳,女性.職業は看護師】
38歳のとき,パソコンで仕事をした後に立ち上がろうとすると,腰が曲がったまま伸びにくいことに気がついた.さらに,歩いているときにロボットのような動きになった.整形外科を受診し,腰椎椎間板ヘルニアの手術を受けたが,改善しなかった.次に,脳神経内科を受診したところ,まず軸性ジストニアを疑われ,傍脊柱筋にボトックス注射を施行し一時的に体幹のこわばりは改善するも,次第に全身に筋硬直が及び,呼吸困難も出現するようになった.追加検査を行ったところ,GAD抗体は血清,髄液ともに陽性でSPSと診断した.血漿交換療法,ステロイド内服,免疫抑制剤による治療を行い,症状は改善傾向となった.本症例は,体幹の筋硬直が強いSPSの古典例であったが,歩容を見直すと過前弯を呈しており,軸性ジストニアとの鑑別を要した.慢性的に胸背部筋の過収縮が持続すると,過前弯いわゆる「反り腰」となることが知られており,一部のSPSにおいて特徴的な姿勢があることを認識させられた.本症例では腰椎椎間板ヘルニアを認めたが,呈している症状はヘルニアに典型的なものではなかったため,このような場合には早めに脳神経内科に紹介するのが望ましい.

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