増刊号 周術期管理マニュアル—保存版
Ⅰ周術期管理・総論
周術期静脈血栓塞栓症対策
原田 裕久
1
Hirohisa HARADA
1
1東京都済生会中央病院血管外科
pp.30-33
発行日 2025年10月22日
Published Date 2025/10/22
DOI https://doi.org/10.11477/mf.038698570800110030
- 有料閲覧
- 文献概要
- 1ページ目
- 参考文献
静脈血栓塞栓症の疫学
一般・消化器外科の手術において,静脈血栓塞栓症(venous thromboembolism:VTE)は重要な合併症の1つである.VTEは深部静脈血栓症(deep vein thrombosis:DVT)と肺血栓塞栓症(pulmonary thromboembolism:PTE)からなる一連の病態の総称であるが,DVTの多くは下肢で生じ,膝窩静脈を基準として中枢型と末梢型に分類される.末梢型の軽微な血栓は臨床的に問題とならないことが多いが,中枢型に進展した際,もしくは中枢側や骨盤内で生じた大きな静脈血栓が塞栓子となり,肺動脈に流入してPTEを生じると周術期の致死的な合併症となりうるため,その発症を防ぐための適切な予防が必須である.
日本の疫学調査において,2011年のVTEの発生頻度は人口100万人あたり126人と推定されている1)が,これは1996年の約5倍に増加しているものの米国と比較すると低い2).一方,PTEの発生頻度は2006年の調査で100万人あたり62人であり,10年前の2.25倍に増加したが,やはり米国と比較して少ない3).また,死亡統計上は2021年の調査で100万人あたり13人,循環器疾患死亡の0.66%に過ぎず,近年はほぼ一定である4).これらのことより本疾患群は重要ではあるものの,本邦においては欧米と比較してその発生頻度は高くなく,また,近年では一般的となった予防措置の効果は十分に認められていると考えられる.

Copyright © 2025, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.

