Sweet Spot 映画に見るリハビリテーション
「どうすればよかったか?」—統合失調症の姉を軸にせめぎ合う家族の肖像
二通 諭
1,2
1札幌学院大学
2札幌大谷大学
pp.229
発行日 2025年2月10日
Published Date 2025/2/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.038698220530020229
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南京錠と鎖がかけられた玄関の写真に,「我が家の25年は統合失調症の対応の失敗例です.」との惹句が被る.札幌在住の映画監督・藤野知明のセルフドキュメンタリー「どうすればよかったか?」のチラシのことだ.自身の家族の暗部を広く世に曝すという行為の原動力とは,いかなるものか.憎しみ,怒り,愛だろうか.加えて,藤野がアイヌの人々を被写体に撮った過去作「八十五年ぶりの帰還 アイヌ遺骨 杵臼コタンへ」(2017年),「カムイチェプ サケ漁と先住権」(2020年)などがそうであるように,虐げられた人々の声を代弁しようとする姿勢も垣間見える.
藤野の姉「まこちゃん」は,面倒見がよくて成績も優秀.医師であり研究者でもある両親の期待に応えるかのように大学医学部に進学するが,1983年,解剖実習を終えた後,統合失調症が疑われる症状に見舞われる.両親は,統合失調症とは認めず,姉を精神科医療から遠ざける.藤野は,このままにしておけないとの判断から両親に説得を試みるものの,解決に至ることなく実家を離れる.道外で映像制作を学んだ藤野は,2001年以降,帰省するたびに家族に向けてカメラを回す.しかし,その後も姉の症状は悪化の一途をたどり,両親は,玄関に南京錠と鎖をかけ,姉を閉じ込める.まさに現代の「座敷牢」という事態だ.
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