特集 公衆衛生と死—よりよい死を迎えるために公衆衛生は何ができるか
Editorial—今月号の特集について
稲葉 裕
1
,
大角 晃弘
2
1順天堂大学
2公益財団法人結核予防会結核研究所 臨床疫学部
pp.101
発行日 2025年2月15日
Published Date 2025/2/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.036851870890020101
- フリーアクセス
- 文献概要
- 1ページ目
公衆衛生の研究・教育・実践の内容は、歴史的にも地域的にも少しずつ変化しており、新しい分野が次々に生まれています。少子高齢化が急速に進む日本にあって、人生最終段階の医療・ケアが公衆衛生の大きな課題となっており、この課題は、他の国々でも今後重要性を増していくことは疑いありません。
一方、これまでの公衆衛生学では、人間の老いと死の状態についてあまり明確な表現はされてこなかったと思われます。死は「疾病の予防、寿命の延長」の中に含まれて、公衆衛生全体の課題設定と評価において、統計処理の対象として重要な位置付けがされていますが、それ以上の突っ込んだ検討はされていません。最近の高齢者の死因統計で浮上してきた死亡診断における「老衰」の問題はその良い例でしょう。その根底にあるのは、死は避けるべきもの、否定されるべきものという考え方です。一方で、生命倫理や死生学で注目されてきている、どちらかというと死は受容すべきもの、死へのプロセスのうちに医療・福祉が関わることで、より理想的な死を支えることが可能であるという考え方(quality of death)があります。尊厳死を巡る法律上の問題や地域包括ケア、在宅医療、緩和医療、人生会議(advance care planning)も、死を巡る公衆衛生と密接に関連しています。
Copyright © 2025, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.