連載 ヒトとモノからみる公衆衛生史intermission・2
北里柴三郎とマスクの時代—肺ペストとインフルエンザを中心に
住田 朋久
1,2
1慶應義塾大学大学院社会学研究科
2国際日本文化研究センター
pp.75-79
発行日 2025年1月15日
Published Date 2025/1/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.036851870890010075
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はじめに
北里柴三郎が千円札の肖像に採用されることが発表された2019年以降、北里を題材とした漫画が幾つも刊行されている。ちょうど新型コロナウイルス感染症の流行が重なったため、その多くで北里のマスク姿が描かれるようになった。1894年の香港でのペスト菌の発見でも、さらには1890年前後のベルリンの研究室や1885年の長崎でのコレラでもマスクを着けているものもある。しかし、そのころ北里がマスクを用いたという証拠はまだない。
北里が関わった文献でマスクが登場するのは、大阪での肺ペストを経て1900年3月に改訂された『増補再版 ペスト』(北里校閲、石神(いしがみ) 亨(とおる)纂著(さんちょ))である。ここで、初版にはなかったマスク(レスピラートル)の着用が追記された1)2)。
この大阪肺ペストでは、1月7日に検疫官のマスク着用が決まった。これは飛沫感染対策用のマスクが組織的に用いられた世界最初期の事例である。今回は、感染症対策マスクの先例を確認した上で、北里柴三郎が大阪肺ペストでのマスク着用に果たした役割と、そこで提案されたマスクの形状の由来、そしてその後の北里のマスク着用との関わりを明らかにする。
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