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はじめに
機能性浮腫とは,下肢の機能および活動性の低下を主因として生じる,器質的病変を伴わない両側性の慢性下肢浮腫を指す。これは臨床現場において極めて高頻度に認められる病態であり,日本リンパ浮腫治療学会では「機能的浮腫」と暫定的に定義し,その病態生理の解明に着手している。
機能性浮腫の主な発生機序は2つに大別される。1つは,下肢の筋肉量減少に伴う筋ポンプ作用の低下であり,もう1つは,長時間の端坐位保持などによる慢性的静脈うっ血である。これらの要因により,血管外へのリンパ液の漏出が進行し,間質腔に水分(リンパ液)が貯留する。
本浮腫は高齢者に多くみられ,体位や時間経過によって浮腫の程度は部位が変化・移動する。通常,疼痛は伴わない。しかし,下肢筋力がすでに低下している高齢者にとって,下肢の浮腫は「重たさ」や「動かしにくさ」に直結する。この結果,活動性がさらに抑制され,浮腫の悪化を引き起こすという負の悪循環を招来する点が,臨床上重要な課題となる。
既存のNANDA-I看護診断では,浮腫は「体液量過剰」のラベルに統合されており,「疾患が原因の浮腫」「リンパ浮腫」「機能性浮腫」は一律に取り扱われている。しかし,日本の保健師助産師看護師法に照らすと,「疾患が原因の浮腫」や「リンパ浮腫」への介入は,疾病の治療と密接に関わるため,多くの場合,医師の指示を必要とする「診療の補助」の範疇と解釈されるべきである。
一方で機能性浮腫は,活動性の低下という看護の領域に深く関わる生活機能障害である。したがって,本浮腫への介入は,看護師が独自の判断に基づき,責任をもって実施する「療養上の世話」に明確に位置づけられる。
本稿は,この日本の医療・看護の現状に即し,看護師の独自の判断と責任の下で介入が必須となる「機能性浮腫」に焦点を当て,その日本版看護診断の定義,介入・評価方法,および関連研究について詳述する。

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