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はじめに
糖尿病や末梢動脈疾患などの慢性疾患を背景に,皮膚の変調をきたす疾患は複数ある。特に足潰瘍は単なる皮膚損傷にとどまらず,感染,壊疽,さらには下肢切断に至る可能性がある重篤な病態である。ここでは,高血糖の持続を背景とする糖尿病性足病変を取り上げる。
糖尿病性足病変の病態構成要素は,神経障害,虚血,感染である。糖尿病患者の足潰瘍は再発が多く,難治性で7〜20%が下肢切断となり,糖尿病患者の足切断の80〜85%は足潰瘍が先行する(日本糖尿病学会,2024)。また,糖尿病性足病変に関する国際ワーキンググループの調査(Peters et al., 2001)では,足潰瘍の既往がある人のうち,3年後に潰瘍を有する人は55.8%,切断に至る人は20.9%と報告されており,足潰瘍の発症を未然に防ぐことが重要である。
わが国では,2008年より看護師など医療者が行うフットケアの診療報酬として「糖尿病合併症管理料」註1が算定されるようになった。とりわけ,足潰瘍といった重症化足病変を予防するための危険因子を患者とともに把握し,日常生活において,いかに高リスク状態にある皮膚をはじめ全身状態に対応していくのかは医療者の責務である。看護師は重症化足病変の早期発見・予防・ケアの中心的な役割を担っており,看護診断の活用はその看護実践を科学的に支える重要な手段となる。NANDA-Iの国際分類においては,2021-2023年版(ハードマンら原書編/上鶴訳,2021)の「皮膚統合性障害」から,2024-2026年版(ハードマンら原書編/上鶴訳,2025)では「皮膚完全性障害」に名称が変更となった。ただし,診断名の英語表記は「impaired skin integrity」であり,診断指標や関連因子の文言が整理された程度にすぎず,大きな変更はない。本稿では,NANDA-Iの国際分類を基盤に,日本の臨床現場に即した形で整理した日本版看護診断「皮膚の変調の高リスク状態:足潰瘍」について,日本の実臨床および研究的視点を踏まえて日本版看護診断の定義,臨床実践,評価方法,研究について述べる。

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