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はじめに
事業における「統合性」ということが意味を発揮するのは,行っている事業活動においてその各分野や要素が矛盾なくスムーズに連動することで,全体としてより効果的な段階に進めることができ事業が実現できると考えられる時に,さらに「統合性に意味がある」として認識され,実行されるというのが一般的な理解といえよう。本特集のテーマである「人とまちの健康のために」ということを考える時,一番「統合性」が反映されるのは,地域コミュニティが彼らの拠点を自らつくり運営していけるような社会的なプログラムが出現する時である。本稿では,統合性の意味が地域コミュニティの拠点をつくり出す時にいかに必要であるかを,「多世代の家」の形成プロセスから考えてみたい。
ドイツの「多世代の家」プロジェクト(Mehrgenerationenhaus:以下,MGH)は,それらの拠点施設が立地する一定範囲のエリア(地区)の住民やそこに関わって活動をするコミュニティが抱えている,あるいはその地区特有の社会環境において発生する課題を解決するために設置された地域コミュニティの拠点である。その形成過程において既存の枠組みにとらわれず,最適解を導くためにはどのような機能とその構成をもつべきなのかを熟考し,結果として個別固有のプログラムを提供できる拠点として,しかも行政だけでなく,市民団体,NPO,社団,宗教法人なども含んだ多様な主体で運営する仕組みをつくり上げ,プログラムの単なる受け手としての市民の居場所という枠組みではなく,能動的に行う側にもなる動的な拠点であるところが特徴的である。
まず,MGHのプロジェクト申請団体は,地方自治体に限らず,法人としてドイツ社会に認められた全ての団体が応募でき,単一でも複数の団体でも申請することができる。この制度の目的は,まさにドイツ社会が直面する各年齢層が抱える困難(例えば生活支援,子育て,家庭問題,貧困,社会的孤立,健康,進学,就労等)や,幅広い生活に関わる課題を人種も超えて解決していくために国と自治体(市,区)から支援を受けて拠点をつくるためである。なお,州が独自に行っている家族支援等のプロジェクトとの同時認定により双方から資金援助を受けることもできる。ほとんどの場合,申請団体が主要な運営団体として活動している。
MGHが立地する都市も大都市から地方小都市,農村集落まで多様で,調査した中では新規の施設として建設した数は限られ,地域コミュニティの活動拠点として使われてきたコミュニティ施設,病院などの改修,増築や教会,公共施設の敷地に併設されるように増築したものなどがほとんどである。活動内容は,子育て支援,青少年支援,高齢者支援,家族支援や相談アドバイスといった家族の身近な課題を扱ったものから,地域活動支援,移住・難民支援,多文化連携,地域再生といった社会課題,さらにそれらを解決していくために行うアート活動や異なる分野間での連携活動など幅広く,各地域が抱える課題の解決のために自由に活動内容を組み合わせて,それをMGHの活動プログラムとして実施しているのである。
そのためにMGHの運営形態も自由に構成することが可能となっている。図1は,ドイツ連邦家族・高齢者・女性・青少年省(以下,ドイツ家族省)提供の資料であるが,大きく4つの運営タイプがある。これにはMGHとして指定される事業のみを行うタイプから,他の事業と複合して実施するタイプまでがある。MGHを開設したいが,運営組織自体に人材,財力などの運営能力が足りない場合などは,他の事業をもともと行っている組織が主体的な運営団体となりつつ,MGHのプロジェクトも実施するということや,既存の組織が行っている事業とMGHの事業とを複合化させるとさらに課題解決に貢献できるというものまで,地域が抱える問題は多岐に存在する中で,運営の方法とその組織構成は自由に選択できるという自由度をもった事業の仕組みをとっているのである。

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