特集 生き残りをかけた病院の事業連携・統合—多様化する手法
総論
病院における事業連携・統合の戦略上の位置づけ
田中 滋
1
1埼玉県立大学
キーワード:
入院患者像の変容
,
医療提供形態
,
提携先候補
,
選択と覚悟
Keyword:
入院患者像の変容
,
医療提供形態
,
提携先候補
,
選択と覚悟
pp.390-392
発行日 2023年5月1日
Published Date 2023/5/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1541211919
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■はじめに
医療人に対する不変の期待は「命を救い,治し,支え,癒すために診療を施すこと」である.一方,医療を取り巻く人口の年齢構成・科学技術・政治経済などの時代環境は変化し続ける.
環境変化の影響のうち,(次節で述べるような)入院患者像の変容は,スピードの違いはあれ,ほとんどの病院に共通と考えられる.それに対し,患者数は日本各地で一律に減少傾向が見られるわけではない.地域ごと,および(後述するような)医療提供形態ごとに異なり,まだ10年以上も増加予想が見込まれる地域も存在する.従って,戦略構築の視野を2025年に置くか,2040年を目標年とするかなどによって,患者数の動向に関する捉え方と対応策は多様でありうる.
他方,職員不足は病院だけが直面する課題ではない.こちらはすでに介護,保育,運輸,建設,飲食・宿泊をはじめとする対人サービス業など,少なからぬ分野において病院よりも深刻な課題となっている.小学校教員についても教員試験応募倍率の低下傾向が懸念されている.従って,急速に減っていく20〜65歳人口を産業間で取り合う方策,例えば「分野の魅力を高める」といった相対レベルの策は—必要条件とはいえ—根本的な戦略とは言い難い.人員不足に悩む全ての業界が一斉に今よりも分野の魅力を高めることができたとしても,相対的には「大きな変化なし」にとどまるかもしれないからである.
こうした環境変化を踏まえ,生き残り策に限らず,経営者の覚悟に基づく選択が求められる.本稿の後半では,覚悟に至る過程を順を追って説明する.
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