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私が『木下康仁』という研究者の存在を知ったのは,大学院修士課程のときに手に取った『死のアウェアネス理論と看護(Awareness of Dying)』(Glaser & Strauss,1965/木下訳,1988)という1冊の本を通してであった。この本の序の最初のページをめくり「むかしむかし,一人の患者が死亡し,天国へ昇った。しかし,…」のくだりを読んだ瞬間から,アウェアネス理論に深く引き込まれていったことを今でも鮮明に覚えている。読み終えた後に訳者あとがきを読み,訳者の『木下康仁』先生とはどんな人なのか,なぜこの本を翻訳し,そして何を伝えようとしたのか,と考えていた。
それから20年の歳月が流れ,聖路加国際大学博士後期課程に進学すると,偶然にも“あの”アウェアネス理論の訳者,木下先生が特任教授(当時)で教鞭をとられており,社会学の科目で初めてご本人とお会いすることができた。その授業では,アウェアネス理論の著者のGlaserやStraussのことをたくさん語ってくれた。また,非常に難解な書籍『社会を説明する(Explaining Society)(Danermark et al.,2002/佐藤監訳,2015)』を授業で読み解くことで,木下先生が関心を寄せていた「批判的実在論」というものに触れた。私は“あの”木下先生と,その場で同じ書籍について自由に話すその時間がどこか信じられず,木下先生がぼそぼそっと口にするさまざまな問いのすべてに目から鱗が落ちる思いだった。その後,博士論文の質的研究で,“あの”木下康仁先生にデータ収集から分析,論文執筆の過程で指導を受ける機会を得て,最終的に博士論文の主査も務めていただいた。あの,アウェアネス理論を翻訳した先生に…。

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