胸部外科 74巻8号 (2021年8月発行)

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今月の話題

完全胸腔鏡下肺全摘除術藤田　朋宏 , 谷川　文 , 小栁　彰 , 岸本　晃司 74巻8号 , 2021年8月 , pp.567-571

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国内の多くの施設で肺癌に対して胸腔鏡下手術（VATS）が導入されている．VATSにはutility incisionを用いたものと，これを用いない完全VATS（cVATS）があり，当科では2020年6月から主としてcVATSでの肺全摘除術を行っており，これまで経験した3例について考察する．

まい・てくにっく

術中肺動脈損傷修復のコツと注意点大塚　崇 , 棚橋　雅幸 74巻8号 , 2021年8月 , pp.572-573

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肺切除の際には，術中肺動脈を損傷しないよう慎重に手術することが重要である．しかしながら，予期せぬ出血は呼吸器外科手術を長年やっていれば避けられない．本稿では，タコシールでは対応不能な出血の対処法を記す．出血部位により具体的な対処法が異なるので，誌面の関係上，右上葉切除における上幹肺動脈根部の出血時の対応について記す．

手術の工夫

経心尖部経カテーテル的大動脈弁留置術と左開胸冠状動脈バイパス術の同時施行中野渡　仁 , 遠藤　由樹 , 北川　彰信 , 深田　靖久 , 入江　嘉仁 74巻8号 , 2021年8月 , pp.574-577

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わが国では高齢化に伴い，動脈硬化を原因とする大動脈弁狭窄症（AS）の患者が増加している．高齢であり併存疾患の多いAS患者に対して，近年は経カテーテル的大動脈弁留置術（TAVI）が広く行われている．また，動脈硬化が原因の代表疾患として冠状動脈疾患（CAD）もあげられ，TAVI適応患者の40〜75％にCAD合併が報告されている1）．ASに対しては外科的大動脈弁置換術（SAVR）とTAVI，CADに対しては冠状動脈バイパス術（CABG）と経皮的冠状動脈形成術（PCI）の選択肢があるが，CAD合併AS患者に対する明確な治療ガイドラインは存在せず，治療の順番・選択は個々の症例において検討が必要である．われわれは，CAD合併のAS患者でPCI困難かつSAVR高リスクであった症例に対して，経心尖部TAVI（TA-TAVI）および左開胸CABGを一期的に施行し，良好な結果を得たので報告する．

臨床経験

金属アレルギーを有する連合弁膜症患者に対する2弁置換・1弁形成術野中　利通 , 加藤　和樹 , 鎌田　真弓 , 所　正佳 , 小坂井　基史 , 櫻井　寛久 , 櫻井　一 74巻8号 , 2021年8月 , pp.578-582

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心臓血管外科領域では人工弁や人工弁輪，リズムデバイスや血管内ステントなどの人工臓器と，胸骨ワイヤーや血管結紮クリップ，一時的ペーシングワイヤーなどの手術材料の構成成分として，さまざまな金属が使用されている．金属アレルギーはⅣ型アレルギーに分類され，原因物質となる金属を体内に留置した場合にはさまざまなアレルギー反応を示す．われわれは，金属アレルギーを有した連合弁膜症患者に対する手術経験を報告する．

再発性多発性軟骨炎に合併し急速拡大を認めた胸部大動脈瘤山本　貴裕 , 安達　晃一 , 堀　大治郎 , 藤森　智成 , 白石　学 , 木村　直行 , 山口　敦司 74巻8号 , 2021年8月 , pp.583-586

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再発性多発軟骨炎（RP）は，全身の軟骨組織に再発性進行性炎症が生じるまれな疾患である．われわれは，RPに伴う胸部大動脈瘤症例を経験したので報告する．

卵円孔内にまたがる血栓を認めた切迫奇異性塞栓症一森　悠希 , 坂本　大輔 , 藤井　大志 , 永吉　靖弘 , 安藤　誠 , 坂本　滋 , 高野　環 74巻8号 , 2021年8月 , pp.587-589

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奇異性塞栓症は，卵円孔開存（PFO）などの右左シャントを介して右心系の血栓が左心系へ流入することで発症する．無症状のPFOが奇異性塞栓症の原因となることはよく知られているが，塞栓症状が出現する前に診断されることはまれである．われわれは，深部静脈血栓症（DVT）に伴う肺血栓塞栓症（PE）と，右房からPFOを越えて左房に伸びる血栓を診断し，左心系の塞栓を起こす前に手術できた症例を経験したので報告する．

先天性気管支閉鎖症と肺葉内肺分画症の同一肺葉内併存神谷　一徳 , 小澤　雄一郎 , 古西　崇寛 , 渡邊　あずさ , 椎貝　真成 , 酒井　光昭 74巻8号 , 2021年8月 , pp.591-594

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先天性気管支閉鎖症は，胎生期に気管支が閉塞し，中枢側気管支との交通が絶たれ，末梢側気管支の拡張と末梢肺の過膨張をきたす疾患である．一方，肺葉内肺分画症は正常な気道系と交通がなく大循環系からの異常動脈によって灌流される肺組織を有する疾患である．われわれは，同一肺葉内に両症が併存した1例を経験したので報告する．

有瘻性膿胸に対するシアノアクリレート製剤と陰圧閉鎖療法の併用洪　雄貴 , 山﨑　順久 , 坂口　泰人 , 田中　宏和 , 園部　誠 74巻8号 , 2021年8月 , pp.595-597

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有瘻性膿胸に対する開窓術症例において，陰圧閉鎖療法（NPWT）の有用性が近年報告されているが，瘻孔が大きい症例では陰圧がかかりにくく適用がむずかしい．われわれは，肺切除後の気管支断端瘻に対してシアノアクリレート製剤（ダーマボンド：ジョンソン・エンド・ジョンソン社，東京）により瘻孔を一時的に閉鎖し，NPWTを実施して膿胸腔を縮小し，根治的治療に結び付けることができた症例を経験したので報告する．

１枚のシェーマ

薄皮1枚の血管鞘が助けてくれた縫っても裂ける肺動脈損傷田川　努 74巻8号 , 2021年8月 , pp.590

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14年前に完全鏡視下肺葉切除を導入したころ，82歳・男性の左上葉切除でA1＋2c近くの血管鞘を剝離中に黒い血が噴出した（図1，2）．損傷はpin-holeであったが，5-0プロリン糸をかけたら裂け，やっとかけて結んだら裂け，再縫合でさらに裂け，A6分岐部までの約2 cm長に拡がった．豆腐が崩れるように裂ける様子は今も覚えている（図3）．肺動脈分枝を処理し，周囲のテンションとブルドック鉗子の重みをとって，A6分岐部に残った血管鞘を拾い，祈りながら糸をかけて結んだら裂けなかった．引っ込んだ血管鞘も引っ張り出して，中枢側までなんとか縫えた（図4）．

連載　未来の専門医を育てる！

名古屋大学の教育理念碓氷　章彦 74巻8号 , 2021年8月 , pp.599-601

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心臓外科医は特殊性が高く，労働負荷は強いが，達成感が大きい職種である．しかし，心臓外科の魅力を理解し，心臓外科の門戸を叩いてもらうことは容易ではないと考えている．本稿では，名古屋大学で行っている若手外科医への教育理念を紹介する．参考にしていただければ幸甚である．

症例

右冠状動脈起始異常に対する治療の1例篠田　大悟 , 中野　光規 , 由利　康一 74巻8号 , 2021年8月 , pp.602-605

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はじめに　健康な若年者の突然死においては，冠状動脈異常の割合が高いことが示唆されている1）．われわれは，心肺停止蘇生後の原因検索で判明した右冠状動脈（RCA）起始異常に対して手術を行い，良好な経過をたどった症例を経験したので報告する．

心臓CT検査を用いて術前に人工腱索の長さを予測した1例谷岡　秀樹 , 渋川　貴規 , 岩田　圭司 74巻8号 , 2021年8月 , pp.606-609

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はじめに　腱索断裂による弁尖逸脱病変を伴う僧帽弁閉鎖不全症に対し，人工腱索再建による僧帽弁形成術が行われている1）．しかし，術中に人工腱索の長さの調整に難渋する症例をしばしば経験する2）．われわれは，心臓CT検査を用いて人工腱索の長さを予測し，弁形成を施行した症例を経験したので報告する．

経心房中隔左房上縁到達法により切除したクマジン稜起源の左房粘液腫の1例鈴木　亮 , 森本　清貴 , 伊藤　寿朗 , 鈴木　正人 , 大堀　俊介 , 工藤　良介 , 横山　秀雄 , 大川　洋平 74巻8号 , 2021年8月 , pp.611-614

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はじめに　粘液腫は一般に心房中隔に多発するが，われわれはクマジン稜に発生したまれな粘液腫の症例を経験した．経心房中隔左房上縁到達法により良好な視野を確保し，粘液腫の一塊切除が可能であった．文献的考察を加えて報告する．

上行大動脈人工血管内に疣贅を認めた1例早麻　政斗 , 林田　好生 , 寺谷　裕充 , 峰松　紀年 , 尼子　真生 , 住　瑞木 , 岩隈　昭夫 , 和田　秀一 74巻8号 , 2021年8月 , pp.615-619

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はじめに　人工血管感染の致死率は25～75％と，いまだに死亡率が高い疾患である1.2）．本例は重症のアトピー性皮膚炎に罹患しており，細菌の侵入門戸であったと考えられた．上行大動脈に移植された人工血管内に疣贅を認めた症例には検索した限り報告がなく，非常にまれなものと思われる．再上行弓部大動脈人工血管置換術，大網充塡術により良好な経過を認めたため，報告する．

Stanford A型急性大動脈解離を発症した単一冠状動脈の1例榊　健司朗 , 贄　正基 , 小原　邦義 74巻8号 , 2021年8月 , pp.620-622

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はじめに　単一冠状動脈は疫学的に0.066％ときわめてまれな疾患で1），その多くは無症状である2）．われわれは，Stanford A型急性大動脈解離（A型AAD）を発症した単一冠状動脈の1例を経験したので報告する．

Stanford A型急性大動脈解離術後のオープンステントグラフト狭窄に対する胸部ステントグラフト内挿術の1例中堀　洋樹 , 西田　聡 , 齋藤　直毅 , 西田　佑児 , 野田　征宏 74巻8号 , 2021年8月 , pp.623-626

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はじめに　弓部大動脈置換術におけるJ Graft Frozenix（以下，Frozenix：日本ライフライン社，東京）の有用性が報告1）される一方，合併症も散見される2）．われわれは，Stanford A型急性大動脈解離術後にFrozenixの狭窄をきたした症例を経験したので報告する．

選択的分枝塞栓術と胸部ステントグラフト内挿術が有効であった無症候性気管支動脈瘤の1例渡邊　冴基 , 道本　智 , 東　隆 , 横井　良彦 , 岩朝　静子 , 新浪　博士 74巻8号 , 2021年8月 , pp.627-630

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はじめに　近年，画像診断技術の進歩に伴い，気管支動脈瘤を認める頻度が増えている1）．われわれは無症候性の未破裂気管支動脈瘤に対し，気管支動脈瘤からの分岐を選択的にコイル塞栓し，さらに胸部大動脈ステントグラフト内挿術（TEVAR）を追加して治療した症例を経験した．気管支動脈瘤に対し，両者を併用した症例の報告はまれなため，報告する．

高齢者に対する心肺同時手術の1例浦田　康久 , 佐藤　友昭 , 日置　巌雄 , 安達　勝利 , 渡邉　文亮 , 藤原　雅也 74巻8号 , 2021年8月 , pp.631-634

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はじめに　高齢化社会を迎え，高齢者の心臓手術は増加傾向にあり，なかには悪性腫瘍の合併もみられる．その際は，心臓疾患の重症度や悪性腫瘍の病期に考慮する必要がある．われわれは，狭心症を伴う大動脈弁狭窄症の高齢者の肺癌合併例に，同時手術を行ったので報告する．

限局性浸潤影を呈した原発性肺アミロイドーシスの2例後藤　由比古 , 今井　美友 , 田中　秀和 , 小佐井　幸代 , 坂上　拓郎 , 森　毅 , 彌永　和宏 74巻8号 , 2021年8月 , pp.635-639

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はじめに　アミロイドーシスは，折り畳み異常を起こした前駆蛋白質が特有のβシート構造に富むアミロイド線維を形成し，全身のさまざまな臓器に沈着することで機能障害を起こす疾患の総称である．アミロイドーシスは，複数の臓器にアミロイドが沈着する全身性と，特定の臓器に限局して沈着する限局性に分類される．原発性肺アミロイドーシスは，アミロイド沈着が気道系に限局しているものとされているが1），限局性浸潤影を呈する原発性肺アミロイドーシスはまれであり，報告する．

肺癌との鑑別を要した薬剤耐性緑膿菌による肺膿瘍の1例半沢　光 , 遠藤　誠 , 椎川　真里那 , 中橋　健太 , 阿部　修一 , 塩野　知志 74巻8号 , 2021年8月 , pp.640-643

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はじめに　肺癌との鑑別を要した薬剤耐性緑膿菌による肺膿瘍の1例を経験したので報告する．

胸部外科医の散歩道

2葉の賀状坪田　紀明 74巻8号 , 2021年8月 , pp.598

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術後20数年が経った患者さん2人から年賀状を頂きました．古い手術ノートを繰りますと，手術は1995年とその翌年に行われ，両肺癌はかなり進行した状態であったことが判りました．2人とも男性で，手術当時は48歳でしたので現在70歳を超えています．

書評

『心臓血管外科手術エクセレンス　④大動脈疾患の手術』塩瀬　明 74巻8号 , 2021年8月 , pp.610

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「心臓血管外科手術エクセレンス」シリーズの第4巻『大動脈疾患の手術』が刊行された．大北裕先生専門編集のもと，総勢29名のtop surgeonがその得意とする分野を担当し，卓越した手術手技および叡智，知見を披露している．

基本情報

胸部外科
74巻8号
(2021年8月発行)

電子版ISSN：2432-9436 印刷版ISSN：0021-5252 南江堂

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