胸部外科 73巻5号 (2020年5月発行)

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胸部外科の指針

自動吻合器を使用した大伏在静脈グラフト中枢側吻合の遠隔期開存率―手縫い吻合との比較・検討上山　克史 , 坂倉　玲欧 , 村上　新 , 永吉　靖弘 , 窪田　博 , 伊藤　敏明 73巻5号 , 2020年5月 , pp.323-330

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冠状動脈バイパス術（CABG）において，近年人工心肺を使用しない術式（心拍動下CABG：OPCAB）が普及しつつある．その際，大動脈（Ao）-大伏在静脈（SVG）吻合には部分遮断鉗子を用いた直接吻合のほかに，特殊デバイスを用いた直接吻合，さらには自動吻合器を用いた機械的吻合などが行われている．当施設ではOPCABにおいて，2006年より特殊デバイスEncloseⅡ（Novare Surgical Systems社，Gilroy）を用いた直接吻合を，2007年より自動吻合器PAS-Port（Cardica社，Redwood City）の使用を開始した．しかし自動吻合器の遠隔成績はいまだ不明である．そこでわれわれは，PAS-Portの遠隔期開存率を調査してほかの方法と比較し，その有用性について検討した．

臨床と研究

心筋梗塞に伴う左室内血栓症に対する外科治療成績古田　晃久 , 森元　博信 , 向井　省吾 , 二神　大介 , 北浦　順也 73巻5号 , 2020年5月 , pp.331-338

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左室内血栓症の有病率は1万人あたり7人であり，8割は虚血性心疾患に関連する1）．左室内血栓症はその形態から，左室壁に円盤状に強固に付着して可動性のないmural type，左室内に突出するprotruding type，左室壁と独立して動くmobile typeに分類され，protruding typeやmobile typeの場合，全身性塞栓症をきたすおそれがある2）．治療は冠状動脈血行再建および左室内血栓に対する治療であり，冠状動脈血行再建は経皮的冠状動脈形成術（PCI）および冠状動脈バイパス術（CABG），左室内血栓に対する治療は抗血栓療法および外科的血栓除去・左室形成術の選択肢がある．左室内血栓が前述のprotruding typeやmobile typeの場合，血栓塞栓症のリスクが高いため可及的除去が必要となり，緊急外科手術の適応となる．

手術の工夫

上行弓部大動脈置換術における解剖学的吻合法―3D吻合の紹介大内　真吾 , 大山　翔吾 , 満永　義乃 73巻5号 , 2020年5月 , pp.339-341

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上行大動脈は下から上へ右側に凸の弧状を呈し，弓部大動脈は前から後ろへ上側に凸の弧状を呈している．この異なるカーブをストレートの人工血管で繋ぎ合わせるには無理がある．1本の人工血管で上行弓部大動脈置換術を行った場合，人工血管が途中で折れてしまうことをしばしば経験する．人工血管の屈曲は狭窄や溶血などの弊害を起こす可能性が報告されており1），望ましいことではない．

まい・てくにっく

気管管状切除における端々吻合時の要点中村　廣繁 , 板東　徹 73巻5号 , 2020年5月 , pp.342-343

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気管管状切除は口径差が少ないため，気管支形成よりも手技は容易である．しかし，中枢気道ゆえにひとたび吻合部トラブルを生じると重篤な事態となり，コツをマスターすることが大切である．そのポイントは，①切除限界，②アプローチと術中換気法，③気管の剝離と血流の維持，④吻合方法，⑤吻合部の緊張緩和，⑥吻合部の被覆の6点に集約できる．

臨床経験

ステントグラフトとドレナージで救命した感染性腹部大動脈瘤破裂小野　公誉 , 佐藤　雅信 , 尾﨑　喜就 , 脇田　昇 73巻5号 , 2020年5月 , pp.344-347

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感染性大動脈瘤（MAA）は，大動脈瘤の中でも発生率が0.6～2％と低い1，2）．しかしMAAに遭遇すると，その治療法の選択には苦慮することがある．一方で，大動脈瘤に対する血管内治療が一般に普及してきた．このようなMAAに対する治療においても，開胸または開腹を伴う外科手術治療より，血管内治療を含む低侵襲治療を選択したほうが術後早期および中期の生存率が高くなるとの報告が散見されるようになってきた1〜4）．

右胃大網動脈を用いた冠状動脈バイパス術後の胃癌に対する胃切除術兼再冠血行再建術福隅　正臣 , 岡野　龍威 , 潟手　裕子 , 宮内　忠雅 , 手取屋　岳夫 73巻5号 , 2020年5月 , pp.348-351

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冠状動脈バイパス術（CABG）において，右胃大網動脈グラフト（RGEA）は右冠状動脈（RCA）領域にin situグラフトとして使用されている．しかし遠隔期に胃癌手術が必要になった際は，郭清のため切離を求められる場合がある．われわれは， RGEAを用いたCABG後に発症した進行胃癌に対し，右小開胸アプローチで上行大動脈に吻合した大伏在静脈グラフト（SVG）をRGEA末梢に吻合した後，胃切除術を同時施行した症例を経験したので報告する．

本態性血小板血症を有する僧帽弁閉鎖不全症に対する開心術川口　保彦 , 山崎　文郎 , 三岡　博 , 中井　真尚 , 三浦　友二郎 , 後藤　新之介 , 寺井　恭彦 , 宮野　雄太 , 村田　由祐 , 川口　信司 73巻5号 , 2020年5月 , pp.353-357

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本態性血小板血症（essential thrombocythemia）は血小板増多を特徴とする慢性骨髄増殖性疾患の一型で，血小板異常による出血傾向と血栓傾向の両方の側面を併せ持つ疾患である．開心術においては出血傾向による術中の止血や，血栓傾向による周術期の血栓弁やグラフト閉塞などの懸念が生じ，注意が必要な病態である1，2）．われわれは，本態性血小板血症を合併した僧帽弁閉鎖不全症の症例に対して開心術を行い，術中にheparin抵抗性が認められ体外循環管理に注意を要した症例を経験したため報告する．

胸痛で発見され自然縮小した胸腺腫千代反田　顕 , 前田　亮 , 富田　雅樹 , 綾部　貴典 , 佐藤　勇一郎 , 中村　都英 73巻5号 , 2020年5月 , pp.358-361

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胸腺腫は悪性腫瘍の性格を有することから，徐々に増大するのが一般的である．胸腺腫自然縮小の報告は少なく，またその原因は不明であることが多い．われわれは胸痛を契機に発見され自然縮小をきたし，病理学的に腫瘍内血管の血栓塞栓像を認めた胸腺腫の1例を経験したので，文献的考察を加え報告する．

菌血症随伴性椎体周囲膿瘍と鑑別を要した胸椎脊索腫中山　敬史 , 吉川　拓磨 , 小原　徹也 , 金子　仁 , 清水　敬樹 , 宮原　敏 73巻5号 , 2020年5月 , pp.362-365

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肺炎などを原因とする菌血症において，血行性感染により椎体周囲膿瘍を発症することが知られている1，2）．一方，脊索腫は，頭蓋底や仙骨に好発する脊索由来の骨腫瘍で，胸椎に発生することは非常にまれである．われわれは，肺炎による菌血症随伴性椎体周囲膿瘍と鑑別が困難であった胸椎原発脊索腫の1例を経験したので報告する．

肺楔状切除術後の残存肺うっ血と断端出血滝沢　昌也 , 髙橋　智彦 , 小林　弘明 73巻5号 , 2020年5月 , pp.366-369

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肺楔状切除術は，小型肺癌や転移性肺腫瘍，炎症性疾患などに対する外科的治療として一般的に行われる術式である．肺門操作を必要としないことが多いため，解剖学的肺切除術に比べ手術手技は簡便で低侵襲であるが，病変の大きさや局在により適応には限界がある．適応を拡大して無理な肺楔状切除術を行えば，時に思わぬ合併症が起こることもある．われわれは，肺楔状切除術後に残存肺のうっ血をきたし，断端出血が生じた症例を経験したので報告する．

１枚のシェーマ

亜急性Stanford B型大動脈解離に対するCrawford 2型胸腹部大動脈置換術の1例碓氷　章彦 73巻5号 , 2020年5月 , pp.352

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今までに多くの胸腹部大動脈手術を行ったが，弓部大動脈から腸骨動脈にいたるCrawford 2型の手術は限られている．

連載　専門医に必要な画像診断技術　（第16回）

6　血管造影―形態と灌流

先天性心疾患 -6　血管造影―形態と灌流白井　丈晶 73巻5号 , 2020年5月 , pp.370-374

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先天性心疾患は心臓の発生過程における異常により形態異常・血行動態異常をきたす疾患群で，画像検査を中心として形態診断を行い，外科的治療を検討する．血行動態的に成り立つ場合は，二心室修復（両心室がそれぞれ肺循環，体循環を担う血行動態）を行い，単心室など二心室として利用できない形態の場合は，Fontan型手術（右心バイパス術）をめざす．乳幼児期には心エコー検査とカテーテル検査が診断モダリティの中心であるが，近年増加している成人期症例では体格や術後であることを理由に，超音波音響窓が不良なことが多く，心臓CT・MRIを組み合わせたマルチモダリティでの評価が推奨されている1）．

症例

開窓型ステントグラフトを用いた弓部大動脈ステントグラフト内挿術後の動脈瘤感染およびⅠ型エンドリークに対する開胸手術の1例有谷　拓実 , 小出　昌秋 , 國井　佳文 , 立石　実 , 奥木　聡志 , 櫻井　陽介 , 曹　宇晨 73巻5号 , 2020年5月 , pp.375-379

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はじめに　近年，胸部大動脈瘤に対する胸部ステントグラフト内挿術（TEVAR）の良好な早期成績および低い周術期合併症率が報告されるようになり，TEVARの適応は拡大している．しかし，エンドリークやステントグラフト感染などに対してTEVAR後に追加治療が必要となる症例が散見され，開胸手術を必要とする症例も少なくない1）．開胸手術の際に定型化された戦略はなく，初回手術としての開胸手術より難易度が上がることが多い．われわれは，カワスミNajuta胸部ステントグラフトシステム（川澄化学工業社，東京）を用いたTEVAR後に生じた感染性動脈瘤に対し感染組織郭清術を行い，その約2年半後にⅠ型エンドリークによる瘤径拡大を認め，弓部大動脈全置換術（TAR）とオープンステントグラフトによるfrozen elephant trunk法（FET）を施行し，良好な経過をたどった症例を経験したので，若干の知見を加え報告する．

僧帽弁口に陥頓する囊胞を形成した左房粘液腫の1例鈴木　智之 , 畑　正樹 , 山谷　一広 , 齋藤　武志 , 羽場　文哉 , 松野　将宏 , 土肥　泰明 , 赤平　純一 73巻5号 , 2020年5月 , pp.380-383

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はじめに　粘液腫は心臓良性腫瘍の約半数を占めるもっとも頻度の高い腫瘍であり，特徴的なエコー像を示すが，囊胞性変化や石灰化などの非特異的所見を呈する場合がある．われわれは，囊胞が主体となって僧帽弁に陥頓し，診断に難渋した左房粘液腫の1例を経験したので報告する．

左腕頭静脈再建を先行させた前縦隔腫瘍切除の1例割石　精一郎 , 広瀬　敏幸 , 藤本　啓介 , 住友　弘幸 , 加納　正志 , 木下　肇 , 筑後　文雄 73巻5号 , 2020年5月 , pp.384-387

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はじめに　上大静脈（SVC）浸潤を伴う胸部悪性腫瘍において，しばしばSVCの合併切除や再建が必要となる．その際，剝離操作や授動手技に伴い，挫滅された血管内腫瘍や付着した血栓による塞栓症が危惧される．われわれは，SVC浸潤を伴う前縦隔腫瘍に対して，左腕頭静脈人工血管再建を先行した後に中枢側SVCを直接エコーガイド下に遮断することで塞栓症を防止し，両側頸静脈圧の上昇なく腫瘍を剝離・切除することができた1例を経験したので報告する．

右B1＋3転位気管支を伴う右上葉転移性肺腫瘍に対し右上葉切除術を施行した1例町田　雄一郎 , 小畑　貴司 , 山田　真也 , 中川　研 , 井口　晶晴 , 栂　博久 , 清水　淳三 73巻5号 , 2020年5月 , pp.389-391

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はじめに　気管支鏡検査の進歩およびCTの性能向上や3D構築画像処理の向上に伴い，気管支分岐異常が比較的容易に認識できるようになった．気管支分岐異常は，過剰気管支と転位気管支に分けられ，その出現頻度は0.6％程度とされている．転位気管支は，本来と異なる位置から分岐する気管支であり，右上葉気管支の転位がもっとも多く，全体の70％を占める．われわれは，転位気管支を伴う右転移性肺腫瘍の切除例を経験したので，若干の文献的考察を加えて報告する．

悪性胸膜孤立性線維性腫瘍の1例大沢　郁 , 上吉原　光宏 , 吉川　良平 , 矢澤　友弘 , 松浦　奈都美 , 井貝　仁 73巻5号 , 2020年5月 , pp.392-395

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はじめに　胸膜原発孤立性線維性腫瘍（SFTP）は未分化間葉系細胞を由来とし，発症率2.8人/10万人とされるまれな疾患である1）．多くは良性であるが13～37％で組織学的に悪性を示し2，3），遠隔期に再発する報告もある．われわれは悪性SFTPの1例を経験したので，本邦報告例を併せ文献的考察を加えて報告する．

亜々区域支に発生した気管支内過誤腫の1例環　正文 , 監崎　孝一郎 , 三浦　一真 73巻5号 , 2020年5月 , pp.396-399

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はじめに　肺過誤腫は肺良性腫瘍の中では頻度が高く，多くは末梢肺に発生する肺実質型で，気管支内過誤腫は比較的まれである．また，その多くは亜区域支より中枢に発生するといわれている．われわれは右B5aiの気管支壁を貫くように内腔および肺実質に伸展し，気管支を閉塞する気管支内過誤腫の1例を経験したので報告する．

胸部外科医の散歩道

雪山賛歌―ストックと杖重松　宏 73巻5号 , 2020年5月 , pp.388

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師走の声を聞くと，新聞の片隅の雪だよりに目がいく．全国のスキー場の積雪状況が気になる．今年の冬は気候変動のためか異常に雪不足で，滑走できるのは北海道や東北の一部のスキー場に留まり，上越地域や関西地方は軒並み不可，蔵王ですらもワールドカップのジャンプ台の整備に苦労していた．年越しは北イタリアのミラノで過ごし，世界自然遺産のドロミテ山系ツアーに参加した．2026年の冬季五輪は2回目となるコルティナでの開催が決まっているが，雪が殆ど積もっておらず，ここにも気候変動の影響が及んでいた．一方でカナダは異常な積雪となっており，地球の気侯は予測のつかないものである．

基本情報

胸部外科
73巻5号
(2020年5月発行)

電子版ISSN：2432-9436 印刷版ISSN：0021-5252 南江堂

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